小説 3
漆黒王と幻の伴侶・6
白魔導師にもう燃やされちまったっていう、3枚の女たちの肖像画。
オレ、ちらっとしか結局見てねーんだけど、思い出す限りでは、3人とも黒髪黒瞳の似たような顔だった。髪型や服装でしか見分けがつかねーなって、そんなことを考えたように思う。
けど……。
「初めまして、陛下」
「本日はお招きありがとうございます」
「お会いできて光栄ですわ」
オレの前に並んで挨拶をする3人は、確かに黒髪、黒い瞳ではあったけど、似ても似つかねぇ顔だった。
ついでに言うと、肖像画の面影もねぇ。
いや、そりゃオレだって、肖像画があんま信用できねぇってのは知ってるさ。おおむね、2割増しくらいは美人に描くのが一般的だって言うし。大体、ちらっとしか見てねーし。
けど、な……。
メス猫と女狐と、魔女、だったか?
そんな悪態をついた見習い魔法使いを、ちらっと見る。
大臣達に、姫達の前では愛想よくしろつって言われたからか、ミズタニはローブのフードを深く被って、ぶすくれた顔を隠してた。
白魔導師が肖像画を燃やす前に、弟子であるあいつも、ちょっとはその顔を見たんかな?
いや……見たんだろう。じゃなきゃ、あんな的確な嫌味は言えねぇ。メス猫と女狐と魔女!
1人は15〜6歳くらいかな。白っぽいピンクの、これでもかってくらいレースの盛られたドレスを着た、目の大きな女だった。
縦巻ロールの髪。頭には服と同色のヘッドドレスを着けて、上目遣いでオレを見上げ、撫でられようと媚びている。
もう1人は真っ黒な、体の線がはっきりわかるドレスを着ていて、細いつり目の目元を赤く染め、ずっと流し目を送って来てる。
髪を結いあげ、後れ毛を垂らして、きらめくダイヤの髪飾りを着けている。勿論、豊かな胸元にも豪華なダイヤが光ってる。
多分、3つか4つか5つくらいは年上じゃねーか? 別に年上がイヤって訳じゃねーけど……。
で、最後の1人は、血のように赤いドレス。目の周りを黒々と縁取りしてて、人でも食ったかのように、唇が朱い。よっぽど赤が好きなんかな、靴もレースの手袋も、血のような赤だ。どういうセンスなんかな、短い髪に飾られてんのは、真っ赤な大輪のリコリスの花だ。
リコリスは毒花だっつって、以前ミ――ミ、ズタニ、だったか? が――いや。そう言ったのは――いや。
いや。
オレは目を閉じて、頭を振った。もう、白い記憶に振り回されんのはごめんだ。だから、もう考えねぇ。
ため息とともに、3人の女の顔を見比べる。
外務大臣は――確か言ったよな? 3人とも気に入らない、そういう事があるかも知れねぇ、って。だったらそれでもいいから、取り敢えず会ってくれ、って。
今や、その言葉だけが頼りだ。
3人とも、「御免こうむる」ってくらいヒドくはねーけど、やっぱこっから選べって言われると、ちとキツイ。
大臣達は十分吟味したんだと思ったけど、一体何を基準に、こいつらのコト選んだんかな?
最初30枚あった肖像画が、3枚に減って――減って、でも――?
いや――いや。考えねぇ。
考えねぇ。
だって、いくら探そうとしても、戸をあけた先の小部屋は空っぽなんだ。
だから考えねぇ!
苛立ちを隠すように、玉座から立ち上がる。
そのまま自分の部屋に帰りたくなんのをぐっとこらえて、「下がって休んでくれ」とか、適当に声を掛けて女達を下がらせる。
斜め後ろに控えてたミズタニが、フードを外しもしねーで立ち上がった。
ミズタニとは反対側、玉座の右の壁際に控えていた内大臣が、素早くこっちに寄って来る。
「陛下。では、また後程、晩餐をご一緒にお願い致します」
「はあ? 誰と?」
まさか、と思ったら案の定で。
「勿論、お三方とでございます」
大臣は当然の顔をしてそう言った。そして、ミズタニをちらっと見て。
「今回ばかりは、お弟子殿も同席をご遠慮頂けますでしょうか?」
と、少しすまなそうに言った。
ミズタニはばさっとフードをおろし、へらっとした声で、「え〜、困りますよ〜」と応えた。
「アベ王は〜、うちの師匠の大事な人ですから〜。毒見役がいないと、危険じゃないですか〜」
「はっ」
その言い草に、失笑する。
「何がおかしいのさ?」
「何が大事な人、だ。だったら、たまには顔見せろっつの」
それは、ホントに何気ないセリフで、ただの嫌味のつもりだった。
「大陸一」の魔導師なんて、説教くせぇ老人に違いねぇし、説教されんのはごめんだったから、ホントに会いたくて言ってる訳じゃなかった。
けど……。
「アベっち、シャレなってないよ〜」
ミズタニが、いつもの軽い口調で、でもニコッともヘラッとも笑わねーで言った。
「心配しなくても、お見合いが無事終わったら会えるよ〜。いっぱいの祝福と一緒にね」
そして、白いローブを翻し、ミズタニは謁見室を出て行った。
毒見をしに来るのか、来ないのか。
言われた通り、席を外すのか、外さねーのか。
「あべっち、って何だよ」
そんなオレの呟きにさえも。
ミズタニは何にも答えねーで、そのまま晩餐の時間になった。
(続く)
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