小説 3
オレとあいつと猫ガイド・3
頑なな感じの三橋の様子に、猫がちょっと困ったように言った。
「じゃー、次に行って見ましょうか?」
すると三橋は、うずくまったままで言った。
「行かなくて、いい、よ。もう、見たって、時間のムダだ、よ」
「行って見ないと分かりませんよ?」
猫がもう一度言ってんのに、そいつはブルブルと首を振るだけ。
ムカッとした。
「てんめぇー!」
うずくまるそいつのこめかみに、2回目のウメボシをお見舞いする。
「人がせっかく褒めてんのに、何だ、その態度は! その目で見ただろーが、お前、打って投げて大活躍だったじゃねーか!」
ギリギリと容赦なく締め付けると、三橋はまだべそべそ泣きながら、「だ、だ、だって」と食い下がった。
なんちゅう頑固な性格なんだ!
「だって、何だ?」
けど、そいつは「だって、だって」しか繰り返さねー。こんな奴相手にすんの、それこそもう、時間のムダだ。
オレは三橋をぽいっと突き放し、猫に言った。
「次、行ってくれ!」
すると、車がガクンと揺れた。
猫がぺこりとお辞儀して言う。
「えー、毎度ご乗車、ありがとうございます」
またかよ、と思いながら黙って聞いてると、猫が続けた。
「間もにゃくー4年後ー、4年後でございます。お降りの際は、お忘れ物ございませんようお気をつけ下さい。間もにゃく4年後に到着致します。扉開きます、扉にご注意下さい」
忘れ物って何? とか色々突っ込みたかったが、その前に車が急ブレーキをかけた。
しまった、シートベルト!
後悔する間も無く、ギュンッとスピンした拍子に、もう一人ともども、強く扉に押し付けられる。
そして、バカッと扉が開いた。
「うわあっ」
さっきと同様の悲鳴を上げて、無様に地面に放り出された。
「……痛ってー」
文句を言いながら起き上がり、三橋にも声を掛ける。
「おい、大丈夫か?」
手を貸して立ち上がらせてから、キョロキョロと周りを見るが、よく分からねー場所だ。
今度は球場じゃねぇ。けど、どっかのグラウンドっぽいな。割とちゃんとしたベンチと、スコアボード。アナウンス室もある。
もしかして、西浦高校のグラウンドか?
「へぇ、結構いい設備じゃん」
なあ、と話し掛けて隣を見ると、何で? 三橋は小さくうずくまってる!
「おい?」
腕を引っ張るが、びくともしねー。
「み、み、見付かっちゃう」
「見付かるって、お前……」
知り合いがいる訳でもねーだろうに、何を怯えてんだか。
と、ため息をついたところで、白い練習着に黒アンダーの一団が来た。
あ、と思って、うずくまる三橋に肘打ちする。
4年後のオレ達だ。
やっぱ、いい感じでバッテリーになってんのかな。仲良さそうに話してる。
当たり前だけど、体が随分大きくなってて、にんまりする。三橋はオレに比べりゃ細いけど、でも、頼りねぇって程じゃねぇ。
未来のオレ達を含めた西浦高校ナインは、過去から来たオレ達に見向きもしねーで、次々にグラウンドに入って行った。
しばらくしてから、こんどは黒い練習着に水色アンダーの一団が来た。
「お、来てんなー?」
オレより体の大きな、坊主頭が呟いた。
その声を聞いて、隣でうずくまってる三橋が「ひぃっ」と悲鳴を上げた。
けど、坊主頭も、その仲間も、やっぱりオレ達の方には見向きもしねーで、次々とグラウンドに入って行った。
と、坊主頭が、大声で言った。
「三橋ーぃっ!」
グラウンドの向こうでアップを始めてた、未来の三橋が振り向いて、手を振った。
「よー、久し振りー」
「おー、今年は負けねーぞ」
黒練習着の連中が、笑いながら声を掛ける。
「知り合いか? 友達?」
オレは三橋に視線を戻した。三橋は、さっき初雁で見たのと同じような、信じらんねー、って顔で、グラウンドを凝視してる。
「何、で?」
三橋が呆然と呟いた。
その目の前では、未来の三橋が、黒練習着の連中と和やかに談笑してる。
別に、どこもおかしくねー光景だ。
「友達なんだろ? 元チームメイトと練習試合なんて、別に珍しくなくね?」
なのに三橋は、フェンスにしがみついて、未来の自分たちを見つめながら、もっかい小さく「何で?」と言った。
泣いてんのをじろじろ見んのも悪ぃと思って、オレはグラウンドに視線を戻した。
そして、気が付いた。
未来のオレが……何つーか、スゲー悲しそうな顔で、三橋の背中を眺めてる。
当の三橋はっつーと、その視線に気付きもしねーで、黒練習着の連中と話してる。
中の一人が、三橋の肩に手を回した。
……それを見たオレの顔が、大きく歪んだ。
(続く)
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