小説 3
暗黒の穴・3
体の穴も、心の穴も。何かでギチギチに埋めてしまいたくて仕方ない。でも、どうしても満たされないんだ、と三橋は言った。
「どんなに優しく、されても、痛くされ、ても。穴が埋まらない、んだ」
暗黒の穴……。
三橋の心には、ずっと穴が開いていて、それは多分オレが開けたもので、オレが悪くて、オレが原因なんだろう。でも、だったら。
「オレじゃ埋められねぇ?」
オレがそう言うと、三橋はオレに背を向けたまま、ふん、と鼻で笑った。
「無理じゃない、かな」
「三橋……」
肩に手を伸ばして、振り向かせる。三橋の顔は涙でぐちゃぐちゃで。でもぐちゃぐちゃだけど、キレイだった。
好きだ。
けど、そんなこと言う資格、オレにはもうねーのかな。
二年振りのキスは、涙の味がした。
でも三橋の吐息は、やっぱり相変わらず三橋の匂いで、甘くて切なくて、くらくらする。
「抱いていいか?」
オレが問うと、三橋は「好き、にすれば、いい」と応えた。
「オレを買ったんで、しょ」
はっとした。
後悔しても遅い。金を出した後じゃ、もう確かめられねぇ。
三橋がオレに肌を許すのは、まだ愛されてるからなのか、それとも買われたからなのか。他の男と同じなのか、違うのか。
別の場所で再会したんなら、どんな会話ができたのか。
「なあ、好きだ」
布団に押し倒して思いを告げれば、三橋がふっと笑った。
「みんな、ヤル前は、そう言う、よ」
「オレのは違う!」
三橋は黙ったまま目を閉じた。そして、薄い笑みを浮かべて言った。
「抱くなら早く、して」
白い肌。筋肉の落ちた胸。細くなった手首。
人形のようにされるがままで、三橋はオレを抱き返さない。
甘い声で喘がない。
濡れた目でオレを見ない。
……オレはもう、愛されてない?
「……っくそ」
勃たねぇ! 何でだ? こいつのこと、抱きたくて仕方ねぇのに!
夢にまで見た白い肌が、目の前にあるのに!
「……阿部君?」
愛撫が突然やんだのを、不審に思ったんだろうか。三橋が目を開けて、起き上がった。
そして、オレが萎えたままなのを見て、またあの絶望の暗黒を瞳に浮かべる。
「勃たない、の?」
「ああ……」
搾り出すように言うと、三橋がオレの体を押し返し、布団の上に座らせた。
あぐらをかいたオレの股間に、そっと顔をうずめてくる。オレの萎えたモノを、口に含んで吸い上げる。
いつもなら、それだけで簡単にでかくなったのに。
オレの股間に、三橋の柔らかな頭がある。それだけで、簡単に興奮したのに。
何でダメなんだ!?
何で反応しねーんだ!?
とうとう、ふは、と三橋が笑った。
「もう、オレ、のこと、抱けない、んだ?」
「違う! 抱きてぇよ! この腕に取り戻してぇ!」
でも、何でか勃たねぇんだ。自分でもワケワカンネーよ。
「体は正直だ、よ」
「違う! これは……違うんだ。三橋、好きだ。愛してる。抱きたい。お前を取り戻してーんだよ!」
だが、オレの叫びも、空しいだけだった。
やっぱりオレは萎えたままで、三橋の穴を埋めてやることはできなかった。
「サイテーだ」
震える声で、三橋が言った。
「キミは一体、どんだけオレを、絶望、させれば、気が済む、のっ?」
パン、と頬を張られた。
瞬間、頭が真っ白になった。
なあ、三橋………。
オレはお前を、不幸にするしかできねーのかな?
(続く)
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