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小説 3
漆黒王と幻の伴侶・3 (後半、少しだけR18)
 見合いの話は、頃合いを見て、オレからミハシに伝えるつもりだった。
 タダで見合いを引き受けた訳じゃなくて、今後50年がどうとか、そういう条件を呑ませたんだぜ、って、むしろドヤ顔で言ってやろうと思ってた。
 なのに……オレのささやかな計画を、空気の読めない奴が、ぶち壊したんだ。

「そういやアベ王〜、今度結婚するんだって?」

 丁度食事の真っ最中で、ワインを飲んでるとこだったオレは、危うく吹き出しそうになって、盛大にむせた。
「え……?」
 ミハシは、信じられねぇ、って顔で固まった。
 カチャン!
 シチューをすくってたスプーンが、力なく皿に落とされて、耳障りな音を立てる。
 琥珀色の瞳が、ぼんやりとオレに向けられた。

「いや、いきなり結婚って訳じゃねーんだ。ただの見合いっつーか、大臣達が肖像画を30枚持って来て……」

「30枚」
 ミハシが、呆然と呟いた。そんなに、と。
「いや、結局3枚に減ったんだけどさ」
 慌てて訂正するけど、ミハシは聞いてんのか聞いてねーのか、ぎくしゃくとオレから顔を背け、取り落したスプーンを掴む。
「……そっか、そうだよ、ね」
 小声で納得したようにそう言うと、ミハシはそのまま、オレの方をちらっとも見ねーで、シチューをすくって口に入れた。

 逆にミズタニの方は、口を縫い付けろってくらい、騒がしかった。
「本気なの、アベ王〜!? 信じらんないよ、オレ、ガッカリしちゃったよ」
 お前にガッカリされる筋合いはねぇ。そう反論する隙もなく、ミズタニはベラベラと文句を続けた。
「いきなり結婚じゃないにしてもさー、見合いを受けるんだって、オレ達に一言も相談なしってのはないんじゃないのー? 何のための後見人だと思ってんのさ?」
「ミズ、タニ君」
 いいんだ、とミハシが首を振った。

「アベ君ももう、20歳だ、し。国内が安定すれ、ば、こういう話がそろそろ来ても、おかしくない、よ。それに、縁談を勧める話、なら、前から聞いてた、んだ」

「はあ?」
「マジ〜?」
 オレとミズタニの声が重なった。
 縁談の話を知ってたって!? 初耳だ。
「それでミハシは、何て応えたのさ?」
 ミズタニに問われ、ミハシはぐっと言葉に詰まった。けど、それも一瞬のことで、スプーンを握ったまま、淡々と言った。
「後見人として、は、反対する理由がありません、って」
「つまり賛成したってコト!?」

 ミズタニの突っ込みに、ミハシはシチューに目を落としたまま、何も応えなかった。
 オレも、何も言わなかった。ムカついてた。
 だって、知ってたんなら、何でさっき驚いた? わざわざ、スプーンを取り落して見せたのは何だ? 演技か?
 ショックなのはこっちだっつーの。
 前もって知ってたら、もっと気の利いた返事だって、できたかも知んねーのに!

 オレの機嫌が悪くなったの分かったんだろうか。
 ミズタニすらも黙り込んで……気まずい空気の中、夕食を終えた。


 そういう事があったから、今夜はミハシも、オレの部屋には来ねぇんじゃねーかと思ってた。
 オレのモヤモヤはまだ治まってなかったし、何事もなく、いつもみてーに優しくしてやれる気分でもなかった。
 けど、ミハシは……。
「アベ、君」
 まだデスクに座って、書類仕事をしてるオレにそっと近付き、肩に手を置いた。
 そんな、甘えるようなコトして来んの初めてだったから、驚いた。
 ちょっとは悪ぃと思ってんだろうか?

「何だよ、オレ、まだ仕事してんだけど」
 冷たくあしらってやると、肩に置いたミハシの手が、ビクンと震えた。
「じゃあ、オレ、待っ……」
「待ってなくていーよ。いつ終わるかワカンネーし」
 ミハシに最後まで言わせねーで、強引にセリフを奪う。そしてそのまま、顔も見ねーで言い捨てた。

「行けたらそっち行くから、塔に戻ってろ」

 でも勿論、行ってなんかやるつもりなかった。
 一晩塔でオレを待って、待ち続けて反省すりゃーいい。
 そう思ったのに――。

 ふひ、と後ろでミハシが、笑うのを聞いた。
 振り向くより先に、細い手が肩から離れる。
 温もりが消えて……ヒヤッとしたのは、何だろう?
「何がおかしい!?」
 慌てて立ち上がり、立ち去る背中を追いかけて、捕まえて、振り向かせると……そこに浮かぶのは笑顔じゃなかった。
 かといって、涙を流してた訳でもねぇ。だけど。

「泣くなよ……」
 オレは思わずそう言って、伴侶の体を抱き締めた。



 顔見られんのが恥ずかしいから、って、いつもはバックを好むミハシが、今日は珍しく、前から抱いてくれと言った。
 いつもは必死に声を殺してるくせに、今日は珍しく、高く啼いた。
 感じまくって、善がって、喘ぎ乱れる様子は、スゲー官能的でスゲーそそる。
 同じ泣かすなら……傷つけて泣かすより、やっぱこうして、オレの腕の中で、愛して啼かす方がずっとイイ。

 白い脚を、あられもなく広げて。秘するトコに、オレを受け入れて。
 オレの思うままに、オレの、なすがままに。楽器を奏でるみてーに。
「あああああっ、ああっ。んあああああっ」
 声を上げて、啼いて、啼いて、もだえ狂う、最愛の存在。
 好きだ。
 オレのモノだ。
 抱きたいのはこいつだけ。愛したいのはこの……「白のミハシ=レン」ただ一人だけ。

「お前だけだ……」

 何度目かの射精の後、とっくに気を失ったミハシの中から抜け出すと、ミハシが小さく甘くうめいた。
 その拍子に、長いまつげの縁から、涙が一滴頬を伝った。
「何で泣くんだよ」
 そっと涙をぬぐって、閉じられた唇にキスをする。

 そしてふと……夕飯の時のことを、思い出した。

 縁談のことを知ってたくせに、驚いたミハシ。
 そっか、そうだよね、と――自分を納得させるように呟いた、ショックを受けていた、それはつまり。
「なあ、オレに、断って欲しかったんか?」
 見合いなんてしねーと。
 ふざけんな、と。

 突っぱねて欲しかったんか……?

 柔らかな髪を掻き上げても、ミハシが目を覚ます様子はねぇ。
 疲れて寝たか。まあ、あんだけ乱れりゃ当然か?
「ったく。だったら最初からそー言えっての、バーカ」

 明日、朝、目を覚ましたら。
 おはようより何より一番に、そう言って、こつんと頭を叩いてやろう。
 そして深くキスしてやろう。

 オレはそんなことを考えながら、ミハシをゆるく抱いて目を閉じた。

(続く)

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