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小説 3
オレとあいつと猫ガイド・1 (タイムトラベル・中2)
 これ以上続けられねぇ!
 野球、辞める! 明日には退団届け、出してやる!
 オレは拳で涙をぬぐい、親の車のリアシートにもたれた。
 今は誰にも話しかけられたくねーから、腕組みして目ぇ瞑って、寝たふりをしておく。
 こうやって大会のたびに、応援したり送り迎えしたりしてくれてる親には悪ぃけど……でも、マジ、もう限界なんだ。

 今日の春大、バッテリー組んでるノーコンオレ様エースが、試合途中でマウンド放り出したせいで負けた。
 そりゃ春大はさ、夏や秋と違って、関東で勝っても全国にゃいかねーよ。けど、せっかく勢いに乗って勝ち進んでたのに!
 皆、負けて悔しがって泣いてんのに、何であいつは、「オレのせいじゃねーし」とかクールぶっていれんだよ?
 謝罪も反省もなしかよ? やってらんねーっつの!



 寝たふりしてる間に、ホントに寝ちまったらしい。
 ガクン、と体が揺れて、はっと目が覚めた。
 窓の外を見て、ギョッとする。真っ暗! 嘘だろ!
 だって、球場から家まで、どんなに渋滞してたって1時間もかかるわけねーじゃん。
「シュン?」
 左隣に座ってたハズの弟を、振り返る。そしてまた、ギョッとした。

「誰だ、お前?」

 そこに座っていたのは、弟じゃなかった。
 一目で弟じゃないって分かる、ふわふわの薄茶色の髪。薄暗がりにぼんやりと浮かぶ、白い肌。
 キョドキョドと、落ち着きなく周りを見回して、オレが声掛けた瞬間、「ひぃぃっ」と悲鳴を上げて飛び上がった。

「ここここここ」

 そいつは訳の分かんねーことを口走り、オレが「こ?」と聞き返すと、慌てて両手で口を塞いだ。
 ……変な奴。
「なあ、こいつ、誰?」
 運転席に座ってるハズの親父に声を掛けると、うんともすんとも返事がねぇ。
「なあ?」
 もっかい聞きながら、頭の片隅で、あれ、って思う。この車……なんか、いつものうちの車じゃなくねーか?
 ちらっとそんな事考えながら、身を乗り出して運転席を覗いて、「はあっ!?」と叫ぶ。

 誰も乗ってねぇ!
 嘘だろ! だって、車、動いてんじゃん!?
 ハンドルも、微妙に揺れてっし。
 でも、あれ、何か雰囲気おかしくね……?

「ひいいいいいっ」
 突然、隣の変な奴が、ヒザと頭ぁ抱えて、甲高い悲鳴を上げた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 ぶつぶつと誰かに謝ってる。
「おい、大丈夫かよ」
 オレは声を掛けながら、そいつの右手をぐいっと掴んだ。
 そして、気が付いた。こいつの指……。

 と、いきなり車がガタンと揺れて、斜め前の助手席が、くるっと180度回転した。
 んなバカな!
 思わず口を開けたオレの目の前で、さらにまた有り得ねぇ事が起こってる。
 猫だ。助手席の上に、猫がいた。

「毎度ご乗車、ありがとうございます」

 薄茶地に黒の縞模様のトラ猫が、二本足で立って喋って、お辞儀した。
 何で猫?
 つか、何が毎度?

 パニックになりかけてると、左手をきゅうっと握られた。
「痛ってぇ!」
 叫んで、手を振り払う。こいつ、ヒョロイくせに、なんつー握力だよ?
 きっ、と睨みつけると、そいつは自分の右手を眺めて、ぼそりと言った。
「うお、夢じゃない?」
「はあー?」

 どカチーン、ときた。

 両手の握りこぶしを、そいつのこめかみに当てて、容赦なくウメボシをお見舞いする。
「夢かどうかは、て・めー・が・確・か・め・ろ!」
 ギャイーっとそいつが泣いても、許さねーでギリギリ締めてたら、目の前で猫が笑った。

「全く、いつ見ても、仲いいですにゃー」

「はああっ?」
 いつ見ても、って、初対面だっつの!
 心の中で激しく突っ込みを入れながら、ウメボシを緩めると、また猫が言った。

「えー。間もにゃくー、2年後ー、2年後でございます。両側のドアが開きます。扉にご注意下さい。間もにゃく2年後に停まります」

 それ電車の車掌じゃねーのか、とか、色々突っ込みたかったけど、その前に車がガックンと揺れた。
 急ブレーキ! の後、おい、スピンしてる!?
「うわっ」
 どこかに掴まる事もできねーで、遠心力で体が浮く。シートベルトしときゃ良かった、なんてちらっと後悔しても、もう遅い。

「わぁぁっ」

 バカッと左右の扉が開いたかと思うと、オレもそして隣の奴も、みっともねぇ悲鳴を上げながら、車の外に投げ出された。

(続く)

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