小説 3
Pick&Choose・後編
うつむき加減・○
頬の染め具合・◎
色の白さ・◎
肌の状態……うわ、髪の生え際、ニキビだらけじゃねーか! ムリ!
次。
上目がちなとこ・◎
頬の染め具合・○
色の……おい、首がそんな黒いのに、顔がそんな白い訳ねーよな? 何か塗りまくってんだろ!?
ってことは、そのピンクな頬も、人工かよ。つーかそれ以前に、その、骨肉でも食ったんかっつーテカテカの口元、何とかしろ。 ムリ!
次。
……声でけーな。ハキハキした女は嫌いじゃねーけど、うるさい女はごめん、ムリ!
次。
ムリ!
あーもー、ムリ!
「ゴメン、悪ぃけど」
もう何回目か分かんねぇ、いつものセリフを口にする。
ずっと断りまくってるせいで、ダメ元な感じなのか、大概の女は「分かった」つって、あっさりと引いていく。
たまに、「どうして? ちゃんと考えてよ!」つって食い下がられる事もあっけど、いや、ホント、ちゃんと考えて「ムリ」つってっから。
そりゃー、ニキビぐらいで断るなって言われっかも知んねーけどさ。美白もスキンケアも、心がけ一つじゃねーか。
きちんと時間見て日焼け止め塗るとか。
それなりの洗顔して、薬用ローション使って、薬塗るとか?
そういう手間惜しがる女と、この先楽しく付き合ってられるかって考えたら、多分ムリだ。
だってさ、告白って、そんな軽いモンじゃねーだろ?
だったら日頃から色々頑張って、ちゃんとして、最高の自分を見せに来るんじゃねーんかよ?
大体三橋なんか、あんなズボラそうなのに、色白いしニキビだって全然ねーじゃん。
高ぇモン使ってんのかも知んねーけど、三橋に出来る事が、なんで女にできねーのか分かんねーし!
つか、三橋みてーに何かに頑張ってて、尚且つ押しが強くなくて、素直なんだけどちゃんと自分の意見持ってて、人見知りのくせに人懐っこくて、笑顔が可愛くて、何かいい匂いがして、そんで色が白くて肌のキレーな女って、いねーんかよ!?
そんで! 何でオレは気が付いたら、三橋基準にして女選んでんだよ? ワケワカンネーし。
当の三橋はっつーと、昼休み、矢部にビシバシ怒られながら、数学の宿題を解いている。
「ちっがーう! そこ、前も同じとこ間違った! はい、消しゴム。もっかいやり直し!」
ひぃぃ、と涙目になってる三橋は、自業自得だけどちょっと哀れだ。
けど……。
「そうそう、正解! できたじゃん! えらい! 最高! 三橋はさぁ、ちゃんと考えればできるんだから。その調子で頑張って! はい、ご褒美」
矢部が、そうやって褒める時は褒めて、あの柔らかな頭をぐりぐり撫でて、飴玉を口に放り込んでやってる様子は……お似合いのバカップルだ。
「見てらんねー」
吐き捨てるように言うと、「見なきゃいーじゃん」と田島が言った。
そういう問題じゃねーよ、と反論したところで、泉に背中をつつかれた。
「ほら阿部、お客さん」
廊下には、また名前も知らねー女が立っている。
「あの、阿部先輩。いつも格好良くて大好きです。付き合って下さい」
先輩呼びってことは、1年か2年? 見たことねー顔だな。
つか、初対面ならやっぱ、外見を最初に見るしか仕方ねーよな?
えーと。
色の白さ・◎
肌の状態・◎
顔を真っ赤にしてるとこ・◎
ふわふわの柔らかそうな髪・◎
……ふーん。まー、いーんじゃね? あと中身は、付き合ってみねーと分かんねーし。
「じゃあ、……」
付き合ってみる? と言いかけた時、「爪の手入れ」って言葉が聞こえた。
矢部の声だ。
はっと、教室の中を見る。
矢部が手に持ってんのは、見覚えのあるネイルケアセット。オレが以前、三橋にプレゼントしたものだ。
引退する直前まで、オレが、三橋の爪の手入れをしてた。
三橋の為に買ったけど、実質使うのはオレだったから、オレの使いやすいモノ選んだんだ。
最後に手入れしてやったのは、甲子園終わってすぐの日で……そういや、あん時、言ったんだっけ。「オレが手入れしてしてやんのも、今日で終わりだな」って。
だって、引退だし。バッテリー解消だし。
……その後すぐ、三橋にカノジョができるなんて、思ってもみなかったし。
誰かに取られるなんて、思ってもみなかった、し。
「悪ぃ、ゴメン」
オレは下級生にそう言い捨て、教室に駆け戻った。
オレの視線の先で矢部が、ネイルケアセットを机の上に広げてる。
そして、三橋に向かって、手を出すように促してる。
やめろ! それはオレんだ! 叫ぼうとした、その瞬間。
「ダメだよ!」
三橋が、大声で言った。
矢部はびっくりして、手を引っ込めた。
「こ、これは、阿部君の、だから……」
真っ赤になりながら、しどろもどろに言い訳する様子が、スゲー可愛い!
「分かってんじゃねーか、三橋ィ!」
オレは感動に任せて、三橋に飛びついた。
「好きだ!」
ドサクサに紛れて、告白する。
「う、お、え?」
三橋は訳も分からず、キョドってる。
田島と泉は、机をバンバン叩きながら、大笑いしてる。
そして矢部は……鬼みてーにタレ目を吊り上げて、オレの方を睨みつけた。
上等だ。ゼッテー負けねぇし!
(終)
※しん様:フリリクのご参加、ありがとうございました。「阿部・三橋共に女と付き合ったり別れたりした後、ある日自覚する馴れ初め話・明るいラブコメで」な感じになっていましたでしょうか。三橋は自覚していたけど、阿部を忘れる為に矢部と付き合ってたかも知れません。ラブコメで長編はちょっとムリ(汗)でした。またご要望があれば修正しますのでおっしゃって下さい。
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