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小説 3
潜入捜査は危機だらけ・9
 解放されたのは、10時を回ってからだった。
 勿論、歩いて帰れるような状態ではなく、すぐそこまで阿部に車で送って貰った。
 寝泊まりしてるアパートは、この仕事限定で借りてる、一時的なものだ。だから、部外者である阿部に知られたって、多分困る事にはならないだろう。
 けれど阿部は……三橋の住処の詳細を訊かず、部屋はどこだとか、実家はどこだとか、そんな詮索もしなかった。
 深入りするつもりがないのだろうか。

 遊び、なの、かな。

 そう思うと、胸がズキッと切なく痛んだ。
 深入りされて困るのは、三橋の方なのに。深入りされないと辛いなんて、全く自分勝手だと思う。
 でも……。
 どうしても気になるのは、阿部のデスクの引き出しにあった、大量の写真である。阿部の性癖を知った今、その(多分)隠し撮りの写真は、色んな憶測を三橋に与えた。

 多分阿部が、ああして生徒を部屋に呼ぶのは、初めてじゃないんだろう、とか。
 あそこできっと、何人もの誰かを抱いたんだろう、とか。
 『オレ好みのどストライク』――そんなこと言われても、嬉しくない。
 だって三橋は、偽物の転入生だ。女子高生を後ろから殴り、服を奪って放置した犯人を、突き止めるために雇われた忍者だ。任務が終われば、去る人間だ。
 三橋がいなくなれば、また別の誰かを抱くのだろうか。あの暖かい手で誰かを愛し、あの腕に、胸に、縋らせるのだろうか。

 ……オレ以外の、誰かを。


 三橋は心もち肩を落として、ふらつきながらアパートの階段を上った。その途中でふっと足を止め、刹那、息を殺して様子をうかがうが……また肩を落として部屋に戻った。
「ただ、いまー」
「よーす、お疲れ」
 無人のハズのアパートには2人の仲間がいて、三橋を気安く迎えた。勿論、気配を感じていたので、三橋の方にも驚きはない。

「あれー、三橋、スカートじゃねーじゃん。ジョシコーセー姿、相当可愛いっつーから見に来たのに」
 一人が騒がしく立ち上がり、三橋の肩に腕を回した。この騒がしい方を田島、もう一人を泉という。どちらも三橋と同じ、優秀な忍者だ。
「潜入初日から、こんな時間までか。張り切ってんな。何か掴めたか?」
 泉に言われて、三橋はカッと赤面した。
 だって、こんな時間になったのは、潜入捜査をしていたからじゃない。容疑者の一人に、抱かれていたからだ。
 何時間も、ずっと。

「あ、瑠里から伝言あんぞ。急ぎかと思って電話したのにってな」
 泉の言葉に、三橋は「あ、うん」とうなずき、またさらに赤くなった。
 瑠里からケータイに電話があったのを、勿論三橋は気付いていた。床に放り出したままの制服のポケットで、マナー音がしつこく鳴っていたのも聞いていた。
 ただ、電話には出られなかった。
 白いテーブルの上で、阿部に後ろから貫かれていた。

「ほら、電話だぜ。出なくていーのかよ」

 阿部はそんなことを言いながら、激しく腰を動かした。三橋はガクガクに揺らされながら、電話の相手のことをちらっと思った。
 瑠里からの電話かな、とか。
 検証結果はどうだったのかな、とか。
 それで気が削がれたのが、阿部にはすぐ分かったようで、「気になるなら留守電聞け」とか意地悪く言われた。
 それから、ひょいっと両足を抱え上げられ、貫かれたまま抱きかかえられて、濡れた制服の前に下ろされた。四つん這いでまた揺すられながら、三橋は阿部に言われるまま、瑠里からの留守電を聞いた。

 いくら細身だといっても、三橋だって50キロは超えている。その体をやすやすと抱えて(しかも繋がったまま)運ぶのだから、阿部の筋力は相当なものだ。
 もしかしたら、そうやって相手をもてあそぶ為に、日頃から鍛えているのかも知れない。


 瑠里が言うには「遠慮しなければ、骨は折れるが多分やれる」らしかった。
 三橋も思ったことだが、やはり阿部も、「犯人は男じゃねーだろう」と言っていた。
 だって、場所が……女子更衣室なのだ。
 三橋だって任務で女装してなければ、不用意に近付きたくない場所だ。
「男なら、用があるのは中身だろ?」
 阿部が言ったのでは、一般論に聞こえない気もするが……制服だけ持ち去るのも、確かにおかしな話なのだ。
 制服が欲しかったのか?
 それとも、三橋のカバンと同じように……隠すのが目的だったのか?

 それとも理事長の心配するように、共学化反対派による……事件を起こすことが目的の事件、だったのか?

 貫いて揺さぶって散々攻め立てた後、再び三橋を膝に抱いて、甘いキスを与えながら、阿部は約束通り、色んなことを教えてくれた。
 阿部が共学に反対したのは……せっかく男子校に就職できたと喜んでいたのに、共学になったら、その分男子生徒が減るじゃないか……という、身勝手な理由からだった、らしい。
 ちなみに、美術の女教師も反対派の一人で、その理由は自分と同じだろう、と阿部は言った。
「マドンナは一人でいーんだよ、多分な」


 マドンナ……。そんな感じではなかったけれど。
 阿部とのやり取りを、ぼんやりと思い出していた三橋は、田島に「あれ?」と顔を覗き込まれて、我に返った。
「う、な、何? 田島君」
「いや、これってさー」
 田島は不思議そうに、三橋の黒シャツの首元を指差して、ぽつりと言った。

「キスマークじゃね?」

 プロの忍者同士で隠し事をしたいなら、そこは「ふへ?」とか何とか誤魔化すべきだった。
 でも三橋はすっかり油断していて……その場所を、とっさに両手で隠してしまった。
「キスマークか」
「キスマークだな?」

 2人に夜通し尋問されて、三橋は阿部に関することを、ひとつ残らず喋らされた。
 さっき車を降りた時、密かに感じた不安さえも。

(続く)

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