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小説 3
くろがね王と黄金の王妃・15
 『大臣に頼まれた』
 ニセ管理人の最期の言葉を聞いて、王様は即座に否定した。
「嘘だな」
 オレもそうだと思ったので、隣で小さくうなずいた。
 王様の側近達は、やっぱりうなずく人もいたけど、驚いて王様に訊く人もいた。
「何故そう思われますか?」
 王様はひとつため息をついて、簡単に説明した。

「理由がねーからだ。大臣が、王妃を殺そうなんてするハズがねぇ。口ではとやかく言ったり、余計な事しでかしたりもしてくれるが、大臣は大臣なりに、こいつのことを認めてる」

 オレは、ちょっと驚いた。
 あの大臣が、オレのことを認めてくれてるなんて……そんな風に感じた事なんて、一度もなかった、けど。
 でも、今回のことに関しては、やっぱり大臣のせいじゃないと思う。
 そう思う理由は、王様とは違う、けど。

「レンは? ホントに大臣の依頼だと思うか?」
 王様に尋ねられ、オレは小さく首を横に振った。
「いいえ、思いま、せん」
 オレがそう言うと、皆が一瞬どよめいた。
 ちょっとキョドっちゃったけど、王様に先を促され、オレはよく考えながら、皆に理由を説明した。

「だって、何か不自然、です。自白したくない、から、自害するものだ、て思ってました、けど。『大臣に頼まれた』なんて、わざわざ言ってから死ぬ、とか、おかしくない、です、か」

 王様の方をちらっと見ると、王様は優しい目で、満足そうに笑ってた。
 何だかそれだけで、自分の意見を肯定して貰えたようで、嬉しかった。

 結局、誰が何の目的で、オレを殺そうとしたのか、明らかにはならなかった。
 犯人は、オレの首を締めた男を含め、全員が死んでしまったし……何の証拠も残らなかった。けど、何故か王様は、あまり気にしていないみたいだった。
 もしかして心当たりがあるのかな、なんて思ったりするのは……考え過ぎ、かな?


 オレの喉の痕や、切り傷なんかが消えるのを待って、ようやく宮殿に帰ることになった。
 出発の前の日には、ここには当分来られないから、って、王様と湖を散歩した。
 争いの痕跡なんてもう何もなくて、湖は相変わらず美しかった。
 ただ、林の中にあった、城からの抜け穴の前に、近衛兵が2人立っていて……それだけが、あの夜の襲撃を物語ってた。

「約束、守れなくて悪かったな」
 ずっと黙ってた王様が、唐突に言った。
 驚いて端正な顔を振り仰ぐと、王様はキリッと濃い眉の間にしわを寄せて、すまなそうな顔でオレを見た。
「花火、ホントはオレと見たかったんだろ?」

 心の中を言い当てられ、ふわっと頭を撫でられて、胸がいっぱいで息が詰まった。
 何て返事していいのか分からない。
 強がりは言いたくなかったけど、正直に「はい」ともうなずきたくなかった。
 でも、全部バレバレだったみたいだ。黙り込んでうつむいたオレを、そっと胸に抱き寄せて、王様が静かに言った。

「新婚旅行中に、寂しい思いさせちまって悪かった」

「い、え」
 オレは王様の胸に顔を寄せて、小さく短く返事した。今、顔を見られたくなかった。
「大臣にも怒られた。そんなだからいつまで経っても尊敬できないんです、ってな」
「大臣……に?」
 オレが問い返すと、王様は「ああ」と短く応え、ふっと笑った。
「花火のこと聞いた後、手紙に封蝋しろっつったのは、大臣なんだ。誰に手紙見られるか分からねーって。そんで、早く帰れって言われた。お前のために」

 オレの……ために?

「手紙、ありがとな。お前がさ、あの管理人達が、何かおかしいぞって気付いて、それを手紙に書いてくれて、ホントに良かった。あれ読んで、焦って、慌てて戻って来た。大臣の言う通りだったって」

 大臣の……言う通り?

「レン、オレにはお前だけだ。大臣もそれは分かってる。お前が、王妃らしくなろうって頑張ってんの、みんな知ってる。踊るしか能のないバカな子供だとは、誰も思ってねぇ。大臣もだ」
 王様は、オレをぎゅっと抱き締めて、「信じろ」って言った。
「オレを信じるように、大臣のことも、お前自身のことも信じてくれ」

 オレ……自身のことも?
 なんでそんなコト言うのかな?
 オレ、そんなに自信なさそうかな?
 それとも、これから……自信失くすようなコトが起こるのかな?


 西の国境に広がる、秋の空。
 美しく色づく林の木々。
 澄んだ湖。
 強く美しい、くろがねの王。その横に立つオレは――。

 「美しい」と「みにくくない」はやっぱり違うと思うけど。
 でも、せめて、この美しい景色の邪魔になってなきゃいいな、と、王様のキスを受けながら思った。



 帰りの道中は、行きよりも少し速かった。
 途中の貴族の屋敷に立ち寄り、歓待は受けたけれど、宴会は丁重に断ったからだ。
 それでも、馬車で5日かかった。
 5日後……。

 宮殿でオレを出迎えたのは、喜びを隠さない大臣の笑顔と、北隣の国の王女の、歓迎パーティの知らせだった。

(続く)

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