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小説 3
NEW!・1 (阿→三→?榛)
「お前が欲しいってんなら、いつでも譲ってやるぜ。オレのお下がりでいーんならな」

 榛名が勝ち誇ったように笑う。
 三橋がうっとりと榛名を見る。
 オレに背を向けて、二人が去っていく。
 榛名の声がこだまする。
「オレのお下がりでいーんならな」
「オレのお下がりで」
 お下がりで……。


「はっ!」
 目覚めとともに、がばっと体を起こして、いきなりの闇に、ちょっと戸惑う。
 荒い息を整えながら、周りを見回して……足元のぬくい布団と見慣れた窓に、自分の部屋だとようやく悟った。
「夢かよ……」
 ため息をついて目を閉じると、夢のシーンが戻って来そうになって、オレは慌てて首を振った。 
「くそっ!」
 イヤな気分だ。そう、イヤな夢だった。
 ……お下がりとか。

 ああ、勿論分かってる。
 状況もセリフも、まんま昨日あったことだけど、勝手に悪夢にしてんのは、オレ自身なんだ。
 オレがやましいこと思ってるから、そんなふうに感じんだ。
 お下がりとか……。
 オレは三橋を、モノみてーに思ってんのか………?



 昨日は、週に一度のミーティングの日だった。
 オレは三橋と少しでも長く一緒にいたくて、基礎の反復練習ができるような数学の問題集を、探しに行こうともちかけた。
 オレんちの近くにちょっと大きな本屋があって、そこは結構、参考書・問題集の種類が豊富だって評判だったから。
 そこで適当にいいのを探した後、使い方を見てやろうと言って、うちに誘えば付いて来るだろう。そうすりゃあ……夕飯まで、いやもしかしたら夕飯も一緒に食えっかも知れねー。
 そう密かに思ってた。

 けど、そんなささやかな目論見を、榛名は見事にぶち壊したんだ。それも、書店に着いてすぐに!

「よう、隆也と廉じゃん」

 書店の4階、高校参考書コーナーの前で、榛名が嬉しそうに声を掛けてきた。
 偶然は偶然だが、そう特別な事でもねぇ。榛名んちは近所じゃねーけど同じ地区内だったし、そこは有名店だったから。
 けど、オレがギョッとしたのは、榛名のセリフだ。

 ……廉? 何で名前呼び?

 確か榛名は、三橋の名前はおろか、顔だってろくに覚えてなかったじゃねーか?
 ――あの、えーと、何だっけ、お前――
 そんな風に呼んでなかったか?

「は、榛名さん、だ。こ、んにちはっ!」

 三橋が、ぱあっと顔を輝かせて挨拶した。榛名は、でっかい犬を可愛がるように三橋を撫で、嬉しそうに撫でられてる三橋には、尻尾が見えた。
「お前ら、何しに来たの?」
 榛名は一応オレに聞いたが、オレが返事しねーでいたからか、三橋が応えた。
「あの、問題集っ、数学、基礎、から」

 相変わらず要領を得ない喋り方だが、それでも榛名には通じたみてーで、すんなりと会話に入ってった。
「あー、何だ、お前も数学苦手なんか? 基礎からねぇ……おー、これなんか分かりやすかったぞ。基礎からじっくり反復できっし」
 榛名は三橋に薄っぺらい問題集を出してやり、三橋にキラキラした目で見られて、ご満悦になっていた。

「は、榛名さんも、これ使った、んです、か?」
「おー、使った、使った」
「ふおお、あ、阿部君!」
 三橋が、思い出したようにオレを呼んで、言った。
「お、オレ、これにする!」
「はあ?」

 オレの意見はまるで無視かよ。もとはオレが、一緒に探してやろーっつったんじゃん? 何で榛名の一言で、オレに相談もなく決める訳? オレの立場って何な訳?

 けど、オレがそうやってぐるぐる考えてる間に、三橋と榛名はさっさとレジで会計を済ませた。レジの列に並んでる間も、あいつらはずっと話を続けてて……そして、榛名が言ったんだ。


 三橋を自分ちに連れてくって。
 欲しいなら、オレに、お下がりをやるよって。


 いや、分かってる。お下がりってのは参考書の話で、榛名に他意はねぇ。
 学力レベルが似たり寄ったりの野球バカ二人が、参考書の話で盛り上がり、去年のをくれるって話になっただけだ。
 それを取りに、三橋が榛名んちに寄ってくだけだ。
「オレは行かねー」
 そう言ったオレにも、「遠慮すんなよ」っつって。親切にも言ってくれただけだ。
 
 他意はねぇ、勿論分かってる。おかしいのはオレなんだ。

 オレが三橋に……片思いしてるせいなんだ。

(続く)

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