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小説 3
係長とオレ・7 (完結)
 店舗のある地下街の閉店時間が、9時だったから、その宴会が始まったのは、実質9時過ぎだった。
 そこから2時間……。お開きになったのは、午後11時過ぎ。
 終電がもう近いので、ダラダラ喋らないで、あっさりと解散になる。
「お疲れ様でしたー」
「お疲れーっす」
 居酒屋のあったビルを出ると、みんな、口々に挨拶して手を振って、それぞれの電車の方向に向かう。
 仕方ないけど、せっかく楽しかったから……何か、名残惜しい、な。

「さ、行くか」
 ポン、とオレの頭を軽く叩いて、係長が言った。
 そのまま、どこかへ真っ直ぐ歩いて行くので、オレは何となく従った。
 しばらくすると、地下鉄の乗り口に来た。
 あれ、地下鉄乗るのかな?
 えー、もう帰っちゃうのかな?
 そう思ってると、頬を人差し指でつつかれた。
「不満げな顔」
 ははは、と快活に笑う。あ、係長、機嫌戻ってる。

「オレんち、来るか? 飲み直さねぇ?」
「うお」
 か、係長の家!
「はい、行き、ます!」
 そう返事すると、「決まりな」と言って、頭をくしゃっと撫でられた。



 係長のお家は、地上に上がってすぐの、小奇麗なマンションだった。
 1階がコンビニになってて、そこでお酒をいっぱい買った。それから、おつまみも。
 おにぎりも買ったら、係長に笑われた。
「お前、さっきまで散々飲み食いしてたじゃねーか」
「も、もう消化、されました」
「はあー、若いなぁ」
 うお、オジサン発言だぞ。
 エレベーターに乗り込みながら、うひっ、と笑ってると、「何だ?」と訊かれた。
 でも、オジサン呼ばわりは失礼だよ、ね。
 だから代わりに、ずっと気になってたことを言ってみた。

「係長、もう怒ってない、ですかー?」

「あー? さあ、どうだかな」
 エレベーターが最上階に止まって、扉が開く。降りてすぐの部屋のドアに、係長がカードキーを差し込んだ。
 重そうな鉄の扉を開けながら、係長が言った。
「何だ、オレの機嫌悪ぃの、気になってたんか?」
「えっと………」
 あ、う、オレ、余計な事言っちゃった? 怒ってはなさそうだけど、め、目が怖いよ?

 ガッチャン。鉄の扉が、重く閉まった。
 チャッ、と鍵が掛けられる。
 係長が、よく響く低い声で言った。
「やっと二人だな」
 段差のない玄関で、革靴を脱ぐ暇もなく、振り向かされてキスされた。
 に、二回目のキスだ……。

 え、と、ど、どうしてキスなんてする、のかな?
 ぐるぐるしてるうちに、一度離れた唇が、また強く押し付けられる。こ、今度は舌が入ってきた!
 わわわ、待って、待って、ちょっと待って。
 三回目……の、キス。
 今、何も考えられない。
 目を閉じたら、真っ直ぐ立っていられなくなった。
 思わず何かにしがみつくと、その「何か」が唇を離し、耳元で言った。

「もしかして状況、分かってねーの?」

 え、って言う間も無く、腕をぐいっと引っ張られる。革靴脱ぐのも間に合わなくて、靴の片方がぽいっと飛んだ。
 ドサ、っと鞄が落ちる。
 コンビニのレジ袋も。

 視界がぐるんと回って、あれっと思ったときには、ベッドに押し倒されていた。
 シュッとネクタイが抜かれる。
 Yシャツのボタンが外される。
 スラックスから抜き取られたシャツのすそから、ごつごつした大きな手が入ってきて、オレのお腹や胸を撫でた。

 あ、またキスされた。

「ん、んう………」
 オレの中から勝手に甘い声が出て、めまいがするくらい酸欠で、くらくらした。
 キスの後、はあはあと息をしながら係長を見上げると、係長は、あのいつもの格好いい顔で、熱っぽくオレを見つめていた。
 あう、そんな顔で見つめられたら、オレ。
 どうしよう、オレ。
 もう何も、考えられないよ。

 目を逸らせないでいるオレに、係長が言った。
「お前、お持ち帰りされたんだよ」

 お持ち帰り……お持ち帰りって、どういう意味?
 
 シワになる、と言って体を起こされ、スーツの上着を脱がされた。Yシャツも白シャツも。
 上半身裸にされて、ようやく意味が分かった。
「あっ」
 オレ、食べられちゃうの?

 うわ。うわわ。待って、ちょっと待って。
 カチャカチャとベルトを外される。
「係、ちょ……」
 自分も服を脱ぎながら、係長が言った。
「プライベートだぞ」
「あ、待って……」
「もう待たねぇ」
 ふえ、そんな。

「三橋、好きだ、みはし」

 係長が、ううん、阿部さんが、熱に浮かれたような声で、オレを呼んだ。
「お、オレも、好き………」
 つられてそう呟くと、何か、気持ちが込み上げて来て、ぶるぶるした。

 そうか、好き。好きなんだ。
 オレ、ずっと好きだったんだ………。



 オレの恋人の阿部さんは、年上で上司で、格好いい。
 仕事もできて、出世頭で、部下からも慕われてて、スゴイんだ。
 その上背が高くて、肩幅広くて、スーツを脱いだら筋肉がきれいで、腕も胸もたくましい。

 そして、とっても………。

 あ、ううん。これは秘密だ。係長とオレの、二人だけの。

  (完)

※でかいぬ様:フリリクご参加ありがとうございました。「年上男前阿部×年下天然三橋、阿部→→←三橋くらい」になったでしょうか、最後辺りは。3話くらいでがっつかせようと思ったんですが、無理でした。阿部視点なら、もうちょっと早かったかも、と反省しております。だらだらと書いてしまいましたが、気に入って頂ければ幸いです。

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あきゅろす。
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