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小説 3
皇孫一の宮の略奪・7
 花井に相談するまでもなく、村人全員が、皇子を守ろうって言ってくれた。
 子供達も、勿論賛成した。
 何を聞かれても、知らないと言うこと。余計なことは何も言わず、何も知らないと言い通すこと。
 それが、村人全員に徹底された。

 間も無く、役人らしき男達が数名、オレ達の村にも現れた。
「高貴なお方を知らないか? ほんの少しの情報でいい。見かけたとか、噂を聞いたとか、何でもいい。教えてくれた者には、ほら、これをやろう」
 大人には金銀を、子供には噂通りの菓子を……男達はいやらしく見せびらかした。

 けど、誰もそんな物に揺らがなかった。
 誰も見向きもしなかった。
「知らないねぇ」
「知らん、聞いたこともねぇ」
「知りません」
 男も女も、大人も子供も、皆口々にそう言った。
 こんな感じで、村人からは何も聞き出せず。けど、どこの村でも同じだったんかな、役人達はあっさりと去ってった。

 それにしても。はは、何だ、この結束力。オレ達、盗賊集団だってのにな。
 いや、むしろ、ならず者集団だからこそ……役人に怯まずにすんだんかな。
 どっちにしろ、誇っていい。
 オレも花井も、背中を叩き合い、称え合った。


 しかし。役人はまんまと追い返したけど……皇子の憂いは晴れなかった。

 気持ちも分かる。オレだって気になってた。
 一年、放ったらかしだったくせに、何で今頃?
 二の宮の病気が関係してんのは明らかだけど、その目的が分からねぇ。
 捜してどうしようってのか。
 連れ戻すのか、殺すのか。

「何で、そっとしておいて、くれないの、かな?」

 昼間、村人の前では気丈に笑ってる皇子も、夜、オレにだけは不安を漏らした。
「オレも皆も、アンタの味方だ」
 オレには、そうとしか言ってやれなかった。
 不安がる皇子を眠らせる為、オレは今まで以上に、もっと強く、もっと激しく。皇子を喘がせ、果てさせた。

「オレが守る。絶対アンタのこと、守ってやるよ」
 そう、何度も何度も言い聞かせながら、白い裸身をかき抱いた。言葉だけで足りねぇ分は、その身体の奥深くまで、何度も強く刻み付けた。
 一人じゃねぇと。オレがいると。
 愛してると。

 また安らかな日々が戻る事を――オレも皇子も、そして村の皆も。ひたすら祈り、願ってた。



 そのまま夏が過ぎるかと思われた。
 無事に秋を迎えるかと。
 けど、夏の終わりの……ある残暑のきつい日の夕暮れに、二の宮が死んだ。

 その喪の明けねぇうちに、失意にくれて、今上帝も死んだという。

 相次いで弟と祖父を亡くし、皇子はオレの胸で泣いた。
 弔いたくても、葬儀にも参列できねぇで泣いた。
 一人残った父宮を想って泣いた。
 自分の無力を呪って泣いた。

――側にいて差し上げられなくて、ごめんなさい。
――オレが代わりに死ねば良かったのに、ごめんなさい。
――役に立てなくてごめんなさい。

 ごめんなさい、と。



 その嘆きが聞こえたんだろうか。
 ある日突然、馬に乗った集団が村に来た。頭の中将と、その部下にあたる、大勢の近衛兵だった。
 まさか。何でだ? 役人は追い返したハズなのに!
 村中が緊迫した。
「ここに新帝の一の宮がいらっしゃる事は分かっている」
 中将は言った。

「オレは一の宮の友として、一の宮の為にここに来た。穏便に話がしたい」

 そん時オレは、皇子と共に納屋にいた。
 真っ青になった皇子を、安心させるように強く抱き締め、背中をさすって宥めつつ、むしろの上に座らせる。
 そして、手入れしてた農具をそっと置き、納屋の壁の隙間から、外の様子をうかがった。
 穏便にと言う割りに、中将も近衛兵も皆、刀と弓矢で武装していて……。

 何でかな、それがスゲー気になった。

(続く)

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