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小説 3
くろがね王と黄金の王妃・13
 それからすぐにたくさんの人が来て、ハナイ君もイズミ君も、チヨちゃんも医務室に運ばれて行った。
 ハナイ君とイズミ君は、支えがないと立ってられないくらい怪我してたのに、運び出される前にオレの前に来た。
「力が足りず、面目もございません」
「お護りし切れず、申し訳ございませんでした」

 そんな、謝る必要なんてない。だって、ハナイ君達が悪いんじゃない。
 オレは、王様の腕の中で身じろぎをして、手を伸ばして2人に触れた。
 顔を上げた2人に、首をぶんぶんと振って見せて、安心させるために笑おうとして、でもできなくて、もう一度首を振った。
「ま、……ま、護ってくれました、よっ」
 少ししゃがれちゃった声でそう言うと、王様はオレを抱き締めたまま、「ああ」と言った。

「オレの方こそ、遅れて悪かった。王妃をよく護ってくれた。今これが無事なのも、お前たちのお陰だ」
 王様が2人にそう言うと、2人とも黙って泣きながら頭を下げた。
 そして……担架に乗せられて、運ばれて行った。

「陛下、王妃様の治療もなさいませんと」

 ニシヒロ先生が、王様を気遣うように、そっと言った。
「ああ」
 王様が苦い声で応え、オレを抱き締める手を緩めた。
 オレの治療?
 てっきり、さっき締められた首とか喉とかの治療だと思ってたけど、違った。
 自分で気付かなかったけど、オレも、浅い切り傷をいっぱい付けられてた、んだ。上品な絹の服はあちこち破れ、そこから血がにじんでる。

 そりゃそうだ、オレは剣の訓練も護身術の訓練も、何も受けたことがない踊り子だ。
 無我夢中で、ひたすら剣を避けて避けて、避けるしかできなかったのに、切り傷だけですんで、本当に良かった。
 殺されるかと思ったけど……というか、ああ死ぬんだ、って思ったけど。
 もしあの男が首を絞めるんじゃなくて、投げ落ちた剣を拾って刺してれば、ホントに今頃、死んでたかも知れない、んだ。

 オレを襲った男達3人は、まとめて床に転がされている。生きてるのか死んでるのか、ここからは分からない。
 1人は……オレの首を絞めた男は、湖の管理人と一緒にいた男だった。
 見覚えのある顔だと、最初に見た時そう思った。でも、どこで見たのか思い出せない。
 それに、さっき、オレの首を締めながら、この男は何て言った?

――今更戻って来られても困るのだ。

 それって、どういう意味なのかな……?



 寝室にあった進入路は、取り敢えず板を打ち付けて封鎖された。
 たくさんの抜け道は、オレ達がここを去ってから、工事するらしい。いらないものはつぶして、いるものには何重にも鍵をかけたりして、中からの脱出専門にするんだって。
 平和な時代だから、使ってなかったからって、古い鍵一つだけで放置してたのは、長年の怠慢だったのかも知れない。

 侍女とか医者とかが、オレの傷を消毒しようって言ったけど、自分がやるからって言って、王様は、寝室で2人きりでオレの手当てをしてくれた。
 ベッドの端に座らされ、その下に王様がひざまずいて、傷の一つ一つに消毒薬を塗っていく。
 まず右手、そして……左手。
「んっ」
 傷がしみて、びくっと手を引こうとするのを、王様は許さない。
「あっ」
 手首を掴まれたまま、薬を塗られる度に小さく悲鳴を上げてると、王様がため息をついた。

「しみるか……?」
 心配そうに言われて慌てて首を振るけど、我慢しても悲鳴が漏れて、すごく恥ずかしい。
 自分でも気付かなかったような浅い傷ばかりだから、もう血も止まってるし、包帯巻く程でもない。
 けど、傷口は思ったよりたくさんあったみたいで、背中にも、胸にも、わき腹にも、消毒される度に、オレは体をびくんと跳ねさせ、小さな悲鳴を上げ続けた。

 王様の温かくて大きな手が、手当てをしてる間、オレの体を支えてくれた。
 最後に頬の傷を消毒した後には、優しくキスもしてくれた。
「よく頑張ったな」
 それは……消毒薬がしみるのを我慢したことなのか、剣をかわせたことなのか、それとも、もっと他のことなのか、分からなかった。
 でも、心からの言葉だってことは分かって、それが何より胸にしみた。

「王様っ!」

 オレは我慢できなくなって、王様の胸に飛びついた。
「レン、傷に障る……」
 王様はそう言いながら、でも、オレをきつく抱き締めて、何度もキスして、舌を絡めては甘い声で「レン」とオレの名を呼んだ。
 傷に障るとか、どうでも良かった。
 強く抱いて欲しかった。

「痛かったら、ちゃんと言えよ?」
 王様はオレに念押ししながら、オレをベッドに沈め、覆いかぶさってまた、キスをくれた。
 一週間ぶりの王様の唇。
 一週間ぶりの王様の腕。
 一週間ぶりの……。

 花火がとうに終わってしまってた事に、オレはベッドで、ようやく気付いた。

(続く)

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