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小説 3
くろがね王と黄金の王妃・12
「チヨちゃん、あぶない、から」
 オレは、チヨちゃんを自分から引きはがそうと、必死だった。
 だってこれじゃ、オレを殺す前に、まずチヨちゃんが殺されるじゃないか。それとも、チヨちゃんごと……あの長い剣で、串刺しにされるかな?
 けど、チヨちゃんはオレに覆いかぶさるみたいに抱きつき、すごい力でオレに張り付いて、耳元で泣きながら言った。

「いや、です、わ、たし、後宮、お守りできなかっ……お、王妃様、今度こそお、守り、しま……」

「そんな……」
 オレはちょっと呆然とした。チヨちゃんは、まだ気にしていたのかって、初めて気付いた。
 そんなのオレ、チヨちゃんのせいだなんて思ってない、のに。むしろ、知らせてくれて感謝してる、のに。
「そんなの、もういい、から」
 オレはそう言ったけど、チヨちゃんはやっぱり首を振って、オレから離れようとしなかった。

 ヒュゥゥー、バン! バリバリバリ。
 ドドン! ヒュヒュゥゥー、ドン! ババン!
 バリバリバリバリ、ヒュゥゥー、バン!
 ドン!

 花火が、暗い室内を切れ切れに照らす。
 ハナイ君が長剣を取り落し、うずくまった。
「………!」
 イズミ君が何か叫んだ。
 1対3なんて、到底無理で。
 でも、イズミ君を突き刺そうとした敵が、がっくんと体勢を崩す。ハナイ君が、その足元にしがみついている。
 その隙を狙って、イズミ君が剣をふるう。

 でも、さらにその隙を狙って……敵が。

「………!」

 叫びながら、チヨちゃんを蹴り飛ばした!

「チヨちゃん!」
 容赦ない力で蹴り飛ばされた彼女は、気を失ったのか、オレから剥がされて転がった。
 女の子になんてことするんだ!?
 訳の分からない感情が、ぐうっと胸に押し寄せた。

 怒り? 嘆き? それともやっぱり恐怖かな?
 分からない。分からないけど、オレは素早く前転して振りかかる剣を避け、舞うように、避けて、避けて、廊下を目指した。
 3対2だから分が悪いんだ。オレが敵を引き付ければ……敵の数を減らせればいいんだ、って、それしか考えつかなくて。

 ドドドドドドン! ヒュゥゥヒュゥゥババン!
 バリバリヒュヒュゥゥー、バンバン!
 バリバリバリバリ。

 花火はどんどんと勢いを増し、まるで踊りのラストパートの太鼓みたいに、絶え間なく空を鳴らしてる。
 めまぐるしい光を浴びながら、オレは息を詰めて、剣の軌跡に集中して、舞うようにひたすら切っ先をよけた。
 しゃがんで、飛びすさって、ターンして。小さく前転したり、くねったり、大きく後転したり。観客のいない舞を踊った。
 そうして、踊りながら少しずつ部屋を横切り、チヨちゃんや2人の護衛から離れた。けど。

 うん、いいぞ、この調子、だ。

 そう思った瞬間――。

 敵が剣をオレに投げた。
「わっ」
 とっさに横に飛んでそれを避け、剣を見て、敵を見た。何で剣を投げたのか……疑問に思う間もなかった。
 男がオレに飛びかかる。
 しゃがんで避ける事もできなくて。


「死ね、お……よ。いまさら……って…られてもこま……のだ」


 男の声を切れ切れに聞いた。

 息ができない。目の前が赤く染まって、耳の奥がうわんと鳴る。
 何? 何で? どうなっちゃったの?
 オレは床の上に倒れていて、その上に男が……知ってる顔の男が……男の両手が、喉、に。
 苦しい。息したい。何でできないのか分からない。
 口を開けても、空気が入って来ない。
 喉、のど、これ、がくるし、く、て。
 じゃ、まなもの、ひっ、かいた、けど、だ、め、で。

 しぬ、と思った。

 おうさま……。


 諦めて目を閉じたら、何でかな。王様の声が……オレを呼んだ。
「レン!」

 ドカドカドカ、と靴音が近付いて。
「王妃様!」
「王妃様!!」
「レン、無事か!?」
 何人もの声がして。

 ふいに、苦しいのがのいた。
 大量の空気が一気に入り込み、ごほごほとむせて咳をする。
 温かい手がオレの背中をさすってて、誰かと思ったらキクエさんで。そして、部屋の方に目をやれば……。

 王様が。

 一瞬で3人を切り伏せて、剣を一振り、血しぶきを飛ばし、それを腰の黒いさやに収め、そして。
 オレの方を振り向いて。
 そして。
 王様は。

「レン……間に合って良かった」

 そう言ってオレを、苦しいくらいに抱き締めた。

(続く)

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