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小説 3
潜入捜査は危機だらけ・3
 数学教師は勿論、1人ではない。この学園には、阿部を含めて3人いたはずだ。
 1人は教頭で、もう1人は志賀という、妻子持ちの壮年の男だ。この2人は共学推進派だし、事件当時のアリバイもあるという話なので、容疑者からは一応除外していいだろう。
 逆に阿部は……表立ってはいなかったけれど、共学には反対だったようだ。

 教頭と志賀の2人が職員室にいるのを確認してから、三橋は人目を気にしつつ、数学準備室へと向かった。
 しかし、階段を上がり3階の廊下を歩き始めてすぐ、その準備室から賑やかな話し声がしていることに気付く。
 ドアに身を寄せて、様子をうかがうと……阿部の他に、5人の女子?  何を話しているのかと思えば、「転校生」なんて単語が聞こえて来たりして、どうやら三橋の噂をしているらしい。

「途中編入なんていうから、どんな優秀なのかと思ったら……」

「さっそく男に色目ばっか使ってるし……」

「でも先生には近付くなって、言っといたから……」

 自分の噂なんて、聞きたいものじゃなくて、三橋はドアに耳を付けたまま、ちょっと迷った。
 後で出直すか、それともこのまま(イヤだけど)話を聞くか……?
 すると、阿部のものらしい、耳に心地良い低い声が言った。

「そりゃあケシカランな」

 女生徒達はキャーと騒いで、「でしょでしょ」とか言い合ってる。
 すると阿部がまた、あの低い声で言った。
「ケシカランのは分かったから、もう帰りなさい 」
「えーっ!?」
 数人の声が重なったが、阿部は毅然とした、どこか冷たい口調で、「ほら、また明日な」と言った。

 三橋ははっとして、ひょいと飛び上がり、廊下の天井に張り付いた。
 誰かがふと上を見上げれば、丸見えだ。
 しかし、誰も上を見ようとはしなくて、誰も三橋に気付かなかった。
 数学準備室から、女子生徒達がぞろぞろ出て、きゃいきゃい騒ぎながら階段を降りていく。
 誰も戻って来ないのを確かめ、三橋は音もなく降り立った。

 素早く服の乱れをチェックし、おずおずとノックする。
「はい」
 響きの良い低い声。三橋は内開きのドアを押し開けて、「失礼します」と言った。
 阿部は少し驚いたように、真っ黒なたれ目を見開いた。

 さっきまで噂してた生徒が現れたから、びっくりしたんだろうか?
 その割に……妙に楽しげに見えるのは何でだろう?
「三橋さん、だったっけ。まあ座れよ」
 阿部は白い小さなテーブルセットを指差した。同じく白い小さなイスが、3つある。

「出来の悪い生徒を、ここに呼んでみっちり課外授業するんだぜ」

 訊かれてもないことを勝手に喋り、阿部は三橋の肩を掴んで、イスの一つに座らせた。
 そして、その整った顔をぐいっと近付ける。
「いずれ呼びつけようと思ってたけど、そっちから、こんなに早く来て貰えるえるとは思ってなかったな」
「よ、呼び……」

 何で呼びつけられなくてはならないのか。
 確かに1時間目の授業は、絶望的に分からなかったけれど……。
 冷や汗をかきながら、キョドらないよう気を付けて、三橋は阿部の顔を見た。

 阿部は……やっぱり、楽しそうに笑っていた。

(続く)

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あきゅろす。
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