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小説 3
潜入捜査は危機だらけ・2
 昼休み。三橋が弁当をドカンと出した途端、教室内がざわつき、あちこちで失笑が漏れた。
 何がおかしいのか、何で笑われてるのか分からず、三橋は内心キョドりまくった。

 こういう時、誰かに「何か私、おかしいかな?」とでも訊けばいいのだろうけれど、トイレでのあの一件以来、女子にはちょっと話し辛い。
 自分は実は男だから、男の阿部先生に興味は無いんだと……打ち明けられれば、どんなにいいか。
 和やかそうな男子の集団を、うらやましげに、ちらっと見る。
 それがまた、「男子に色目使ってる」と、反感の元になることには気付かない。

 捜査が終わるまでの、短い在学だから、別に友達なんて必要無いのだが……。
 や、やりにくい、な。
 三橋は弁当をかつかつと食べながら、こっそりため息をつくしかなかった。


 完食した、大容量の弁当を鞄にしまい、三橋は教室をふらっと出た。
 そのまま校庭に出て、体育館横の事件現場をちらっと覗く。
 共学化を前にして新設された、女子更衣室。
 ここで起きたのは、女生徒の襲撃事件だ。

 放課後、忘れ物を取りに来た女子が、何者かに後ろから殴られて気絶した。
 幸い、大きなたんこぶを作っただけで済んだらしいが……制服を剥ぎ取られ、下着姿で更衣室に転がされていたという。
 犯人は何をしたかったのか?
 制服が欲しかったのか、その子に恨みがあったのか、単なる愉快犯だろうか?
 それとも……共学反対派のしわざだろうか?

 事件は警察沙汰にはされず、校内でもみ消される事になった。
 けれど噂はどうしても残るし、ただでさえ少ない女子生徒が、これ以上減っても困る。
 だから三橋が理事長から依頼されたのは、その犯人探しと言うよりは……むしろ、理由の解明だった。


 更衣室の前に立って、周りをぐるりと見回してみる。
 すぐ横は体育館、木立を挟んで向こう側には専門校舎。調理室と被服室からは丸見えだが、こういう学校だから、当然無人だっただろう。
 死角になると、言えなくもない、か。

 ふと、人の近付く気配を感じて、三橋はひらりと高く跳び、専門校舎の2階のベランダに張り付いた。
 木立のせいで、現場からここが死角になるのは、さっき確認済みである。
「あれ、おかしいな」
 さっきまで三橋の立っていた場所で、誰かを(もしかして三橋を)探すように、キョロキョロと視線を動かしているのは、そこに不似合いな人物だった。

 阿部隆也……。
 専門校舎にも、体育館にも、女子更衣室にも用事がありそうにない数学教師。

 三橋は、彼の整った顔を油断なく見下ろしながら、どうしたものかと考えた。

(続く)

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