小説 3
潜入捜査は危機だらけ・1 (忍者パロ・先生×生徒・女装注意)
三橋が女装させられています。苦手な方はご注意下さい。
16歳の男子として、男子校に潜入するのは、構わない。
潜入捜査なんて、忍者としては基本中の基本だし、もっと言えば小学校に、児童として潜入した事だってある。……13歳で。
だから、男子校に潜入するのは構わないし、元・男子校で今年から共学、なんて高校に潜入するのも構わない。
ただ……女子として、じゃなかったら。
三橋は、鏡に写る自分の姿を見て、ため息をついた。
白シャツに、紅の幅広リボンタイ。グレーのボックスプリーツスカート。
残念な事に、女に見える。
髪の毛は、女子としては短いが……ショートヘアと言えなくも無いだろう。
「オレ、髪の毛だって、短い、し」
里で指令を受けた時、断ろうとしてそう言うと、「エクステを着けたげる」とイトコに言われた。
勿論、断った。
そこまでして長い髪になりたくなかったし、できることなら、この指令だって断りたかった。
「せ、背だって、女にしては高いし」
そう言うと、イマドキ170センチある女子だって珍しくないんだから、と言われた。
「声だって、女にしては低いし」
そう言うと、忍者なんだから声色ぐらい使えるでしょ、と叱られた。
「か、肩幅も、ウエストも……」
そう言うと、イトコは。
「大丈夫、良くも悪くも子供体型だから!」
それは褒めてるのか、励ましてるのか……それともやっぱり、無理矢理行かそうとしてるのか。
「じょ、女子としてなら、瑠里が行けば……」
いいじゃないか、というセリフは、じろっと睨まれて、口の中に消える。
三橋は優秀な忍者だが……口ゲンカで勝てたことは一度も無い。
「女の敵が相手なのよ! 女の子が潜入してどうするのよ!」
瑠里なら大丈夫だよ、とは、口が裂けても言えなかった。
「廉、これはお前に頼んだ仕事だ」
そう、里長に言われれば、イヤでも引き受けざるを得なかった。
だって、三橋は……プロの忍者だからだ。
仕事場所に、こっそり忍び込む事も多いけれど、今回のように転校生として、堂々と潜入する事も珍しくない。
職業忍者なので、注目を集めるのは結構苦手だ。だから目立たないに越した事はない。
けれど……ここまで敵意を持たれる転入生も、珍しいのではないだろうか。
「三橋れんです。よろしくお願いします」
教壇の横に立って挨拶した後……ぐるっと見回すと、半分くらいの生徒が、三橋の方を見ていなかった。
残りの半分は、大体男子も女子も、こっちを微妙な顔で見つめている。
次の授業の予習だろうか、復習だろうか、それとも、宿題でもやってるのか? みんな、ノートや教科書や、参考書なんかを広げている。
進学校、という雰囲気だ。
10組まである中で、女子は15人しかいない。均等に分ければ、女子はクラスに1人か2人しかいないことになる。
でも、それでは気の毒なので……女子7人いるクラスと、8人いるクラスと、男子しかいないクラスに分かれているらしい。
三橋が編入したのは、女子7人だったクラス。三橋が入って、建前上は、今日から女子8人である。
恐ろしい事に、何を言ってるのかすら分からない数学の授業を受けた後、休み時間にトイレに行った。
勿論、女子トイレ、だ。
情報を得るのに、トイレは基本。三橋はあらかじめ、イトコに女子トイレのマナーを叩き込まれた。
里の学校の、女子トイレで。……何故か女装した上で。
用を足す時は、座る。
そして、音を消す。でも、何度も水を流さない。
手は、ちゃんとハンカチで拭く。ハンカチはシワシワNG!
鏡で髪型チェック。……などなど。
トイレ一つで、そんな面倒臭いなんて思っても見なかった。
でも、正体がバレては困るので、いろんなマナーを必死で覚えた。今後、きっと役に立つと……そう、自分に言い聞かせて。
「私さ、さっきの数学の先生に、ため息つかれちゃった。ノート、真っ白だったから」
手を洗いながら、隣にいた女子に、さりげなく話を振ってみる。
「あの先生って、怖そうだけど、人気あるの、かな?」
「ああ、阿部先生?」
「うん」
三橋はうなずいた。
数学教師、阿部隆也、23歳。まだ2年目の新米教師――覚えて来た情報、その写真入資料のページ丸ごと、パッと頭の中に浮かぶ。
教師だからって、勿論、「事件」の容疑者の一人には違いない。
そう、三橋は思っただけだったのだが。
「転校初日で、阿部先生に目ェつけるなんて。生意気じゃない?」
誰かが、そんな物騒なセリフをを口にした。そして……女子トイレにいた全員が、何故か三橋の顔を見た。
「転入生だから、ちょっと目立ってるだけなんだからね。阿部先生は、みんなの先生なんだから。抜け駆けは、許されないからね!」
三橋は優秀な忍者だけれど。イトコ一人にすら、口ゲンカで勝った事は一度もない。
ましてや、15人の初対面の女子を相手に……渡り合えるハズもないのだった。
(続く)
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