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小説 3
皇孫一の宮の略奪・2
 一晩経って、分かった事がある。

 一つ目は、昨日襲った寺から、火が出たって事。
 二つ目は、その火事で、一の宮が死んだとされてる事。
 三つ目は、検非違使がまるで動いてない事。
 四つ目は、……一の宮が、本人の言う通り、価値が無いって思われてるらしい事。


「火ぃ点けたの、ホントにお前じゃないんだな?」
 頭目の花井に言われ、オレはじろっと睨み返した。
「ったりめーだろーが。疑ってんのかよ?」
「いや、勿論、信じてるけどさ」
 花井は両手を軽く挙げた。
 当然だ。オレ達は盗賊だが、やりたい放題やってる訳じゃねぇ。
 金持ち以外は襲わねーし。盗みの為の殺しもしねぇ。付け火だって、絶対にしねぇ。

「でも、だったら余計にさ」
 花井が、剃り上げた頭を掻きながら言った。
「阿部、お前、気になんねーの? 誰が何で、何の為に火を点けたのか?」
「別に」
 オレは短く応え、自分ちの戸口をじっと見た。
 その木戸の向こうには、死んだハズの皇子が眠ってる。

 ……自分が、死んだ事にされてるのも、知らねぇで。

 そんなこと知ったら、あの皇子はどんだけショックを受けんだろう?
 いや、それとも……自分に価値は無い、なんて言い切っちまうあいつのことだから、驚きもしねーのか?
 どっちにしろ……。
「もうあの皇子サン、帰れなくなっちまったな」
 花井の言葉に、オレも「ああ」と同意した。
 元々、頼まれても帰すつもりはなかったけど。でも同時に、飽きても放り出せねぇ、って事になった。

 と――目の前の戸口が、ガタンと鳴った。
「お、何だ?」
 駆け寄って戸を開けると、白い肌衣だけを身に纏った皇子が、戸にもたれるように立っていた。
「起きたんか?」
 声を掛けると、皇子はオレの顔を仰ぎ見て、ぽっと赤くなり、目を逸らした。

 陽の元で見ると、マジ色が白い。
 寝乱れた柔らかな髪が、陽光を受けて、きらきら輝いてる。
 じろじろ見てると、皇子がますます顔を赤らめ、言いにくそうに訊いた。
「外、出ても、いい?」
 声が掠れてんのは、明け方まで啼いてたからだ。
「おー」
 短く応えて、腕を取り、体を支えてやる。
 歩きにくそうにして、どっか辛そうなのも、多分オレのせいだし。

 ちょっとヤリ過ぎだったか。
 今朝方まで続けちまった行為を思い出し、微笑みながら反省する。

 ふと後ろを振り向けば、花井が地面にひざまずき、うやうやしく頭を下げていた。
「お前、何やってんの?」
 声を掛けるが、花井は小さく「うー」と唸ってる。
 まあ、こいつはたまに、真面目すぎて困るとこあっからな……。
 オレが失笑してると、皇子が困ったように、オレの顔を見た。髪と同じ色の太い眉が、情けなく下がっている。

「あ、の、顔を上げて下、さい」
 皇子が、まだ少し掠れた声で言った。
「オレは、もう、皇子じゃない。……で、しょ?」
 そう言いながら、少し悲しそうに、皇子は笑った。

「死んだ事に、なってる、て?」

「聞いてたんか」
 噂話には、少し声が大きかったか。
 皇子は小さく首を振り、「聞、こえ、た」と言った。

 そして……驚く事じゃない、と、続けた。

(続く)

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あきゅろす。
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