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小説 3
係長とオレ・2
 うちは、そこそこ中堅のスポーツ用品の卸会社だ。
 だから、お得意様はスポーツショップとか、スーパーやデパートのスポーツコーナー。
 やっぱり売り上げが一番大きいのは、郊外型の大型店で、そういうところの担当は「花形」って言われて、営業部の中でも人気が高い。
 オレ達が担当してるのは、都心エリアの小さなショップだ。
 こういうところと、郊外店舗では、やっぱり売れ筋とかもかなり違うんだって。


 模様替えを手伝うことになった店舗は、地下街だった。
 明日の土曜から、その地下街が一斉にセールをやるんだそうで、あちこちのお店で準備してる。
 オレも係長も、スーツの上着なんか初めから脱いで、ネクタイ外してYシャツ腕まくりして、汗かきながら手伝った。
 明日は筋肉痛かな、とちょっと思ったけど、週末はなーんにも予定ないから、大丈夫。

「三橋君、それ、こっちに並べて」
「はい、全部で、いーですか?」
 店舗のスタッフさんの指示に従い、オレは物を動かしたり、商品を並べ直したりする。
 オレと係長の他にも、助っ人さんは何人か来ていて、それは他社の卸さんだったり、メーカーさんだったりした。
 手伝いに来たとこの商品は、やっぱり優先的にいい場所が貰えたりするみたい。棚に並べるのを任されたりすると、やっぱり自分とこの商品は、目線の高さに並べちゃえるし。

「お前、意外に作業早いな」
 感心したように言われて、ふと見ると係長だった。腰に手を当てて、うーん、と伸びをしてる。
「いるよな。普段ボーっとしてんのに、文化祭準備とかになると、張り切る奴」
「うおっ!」
 文化祭準備!
 そうか、何か妙に楽しいなと思ったら、そういうノリなんだ。
 うん、そうかもね。明日からのセールとか、卸のオレ達が参加する訳じゃないけど。でもこの地下街全体が、祭りの前って感じで、熱気を持ってる。
「ふへへ」
 つい笑っちゃってたら、ぽんって頭を撫でられた。
 目をやると、係長がすっごく優しい目でこっちを見てて……オレはちょっと焦って、目を逸らした。

 阿部係長は、男のオレから見ても、格好いい。
 キリッと上がった黒い眉と、整った鼻筋。引き締まった口元。でもちょっとタレ目で、そのせいで嫌味になり過ぎない。
 その上係長は仕事できるし、速読だし、背が高くて筋肉質で、もう30近いとはとても思えないし。
 いつ見ても格好良くて、ホント憧れる。
 だから……オレから眺めるのは良くても、反対にじっと見られたら、き、き、気まずいよ。照れちゃうよ。

 どぎまぎしてたら、係長が腕時計を差して言った。
「もう終業だから、上がっていいぞ」
「うえ?」
 同じように時計を見ると、ホントだ、もう6時。
 気付かなかった。地下街だから、日暮れとか分からなくて、時間の感覚がなくなっちゃうな。それに、楽しかったし。
「か、係長、は、どう……?」
「あー、オレはもうちょっと残るわ。ハンパは気持ち悪ぃ。お前は帰っていーぞ。サービス残業は禁止だ」

 う、確かに直帰にしちゃったから、今日は残業代も付かない。けど。
 もうちょっといたいって、思っちゃダメかな?
「あ、あ、あの。め、め、メーワク、じゃなかったら、オレも手伝いたい、です。帰っても一人、だし」
 勇気を出して言ってみると、係長はちょっとびっくりしたみたいに目を見開いて……それから、ふっと笑った。
「迷惑じゃねーけど。じゃ、もうちょっと手伝うか?」
「うわ。は、はいっ!」

 嬉しくて、大声で返事したら、他社の助っ人さん達に笑われた。
「阿部君、慕われてるねー」
「子犬みたいだな」
「そのうち、阿部さんになら抱かれてもいいです〜とか、叫びそうだね」
 スタッフさんの冗談に、阿部さんは「なんスか、その比喩」なんて苦笑してる。
 オレも元気良く応えた。
「はい、そんな感じです!」
 そしたら、みんなが一斉に大笑いした。

 うお、ウケたぞ。

 ふひひ、と笑ってたら、阿部係長が、グーでオレの頭を軽く小突いた。
「バカは一日一回」
 お、それ聞くの、2回目だ。
 でも何でかな、嬉しいの。


 そんなノリが、オレはホントに楽しくて。
 だから結局、準備が全部終わって、店舗スタッフさんがシャッターを閉めて上がるまで……係長と一緒に手伝った。

(続く)

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あきゅろす。
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