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小説 3
係長とオレ・1 (年の差・社会人)
 オレの上司の係長は、最短で出世して来たらしい。
 入社後のガイダンスで、確か、1ランク上がるのに最短は3年って聞いたから……主任になるのに3年、係長になるのに3年、だ。
 ってことは、阿部係長は今、お幾つなのかな……?

「……三橋!」
 ぼーっと考え事をしてたら、係長に名前を呼ばれた。
「はっ、はい!」
 ガンッ!
 慌てて立ち上がろうとして、デスクの引き出しにヒザをぶつけてしまった。
 ……痛い。

 痛くて立ち上がれなくて、机の上に伏せちゃってたら、係長が呆れたように言った。
「何やってんだ?」
「す、すみま、せ……」
 しどろもどろに謝ってると、ぽん、と頭を軽く叩かれた。
 振り向くと、係長が、いつの間にかオレの後ろに立っている。

「うおっ」
 びっくりして変な声を上げたら、係長が「何?」と格好いい眉を寄せた。
「しゅ、瞬間移動、したっ!」
 ゴン! 係長がオレの頭をグーで殴って、オレのデスクに書類を置いた。

「バカは一日一回にしろ!」

 うう、「何?」って訊かれたから、正直に思った事言っただけなのに。
 係長は、もう自分のデスクに座って、オレのことなんか忘れたみたいに、パラパラと書類を読んでいる。
 速読っていうんだって。
 上からざっと目を通すだけ(?)で、必要な単語(?)を脳が勝手に拾って(?)、勝手に理解する(?)んだって。よく分からないけど。

 オレは書類一枚読むのも時間掛かるし、それはどうやら、心中発声(?)しながら読んでるせいらしい(?)んだけど、係長に指摘されても、読み方の癖なんて直せない。
 だからいつも、係長の速読の様子見てると、格好いいなーって憧れるんだ。

「三橋!」
 ぼーっとしてたら、また係長に名前を呼ばれた。
「は、はい!」
 今度は慌てずに、立ち上がらないで返事した。すると、係長が言った。
「書類読んだか?」
「ふあ?」

 書類、って何の書類?
 ぱっとデスクに目を降ろすと、いつの間にかオレのデスクの上に、書類が数枚置いてある!

「うおっ。い、今、発見しました」
「はあっ?」
 係長が、怒った声で聞き返した。
 お、オレは「天才と紙一重の何か」ってよく言われるけど、ここで何て応えなきゃいけないかくらいは、分かってるぞ。
「今、読んでます!」
 すると係長は、小さな舌打ちとともに言った。
「ちっ。早く読めよー」

 書類の陰から、そっと様子を伺うと……係長がじっとオレを見ていたので、オレは慌てて目を伏せた。



 月に数回、係長は外回りに出かける。
 納品先の全ての店舗を一つ一つ回って、色んな声を聞きたいみたい。
 オレは最近、その係長のお供にくっついて行く事が多くなった。
 お陰で、オレまで顔を覚えて貰って、「阿部君のとこの子」とか呼ばれたりする。
 その度に、係長は「三橋って呼んでやって下さいよ」って言ってくれる。
 でもオレは……係長とセットみたいに、呼ばれる方が嬉しいんだ、けどな。

 昼休みのチャイムが鳴って、係長がオレを呼んだ。
「三橋、準備いいか?」
「う、わ、はいぃ」
 オレは慌ててパソコンを閉じ、鞄とスーツの上着を持った。
 その間に係長は、ホワイトボードの自分とオレの欄に、「直帰」と書きながら、主任さんと話してる。

「じゃあ、何かあったら、ケータイにかけてくれ」
「はい。まあ、何もないと思いますけどね」
「はは。あったら困るけどな」
 係長は快活に笑ってる。
 オレは係長の側に行って、主任にぺこりと頭を下げた。
「い、行って、来ます」
「はいはい、行ってらっしゃい」
 主任に見送られながら、係長と一緒にオフィスを出た。

 今日はいつもの外回りの後、お得意様の店舗の、模様替えを手伝う予定になっている。
 就業時間内には、多分ここに戻って来れないから、直帰だ。
「昼メシはどこで食う?」
「う、メガ盛りの、店、がいいです」
 そんな事を話しながら、オフィスビルを後にする。

 係長には内緒だけど。オレは彼と二人っきりの、この外回りの時間が好きだった。

(続く)

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あきゅろす。
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