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小説 3
IDENTITY・11
 男は、ハルナと名乗った。
 驚いたことに、都で天才と評判の「黒の烈風」だった。
 その天才剣士は、崖から落ちて行方不明になってた「レン」を、ずっと捜し歩いていたらしい。
 最初の1ヶ月は山を捜し、2ヶ月目は川沿いを捜した。3ヶ月目から、ようやく近隣の村や町で、賞金をかけて張り紙を出し始めたという。
 金貨100枚……そんだけ出しても惜しくねぇ、大事な相棒だ、って言った。

 スゲー落ち着かねぇ気分だった。 
 恵まれた背丈、鍛え上げた肉体を誇る剛の者。重そうな黒の鎧を、難なく着こなすパワー。長剣を腰に下げても、切っ先を引き摺らない長い脚……。
 ミハシは、こんな奴とチームを組んでたのか。
 こいつはミハシの過去を……全部知っているんだろうか。


 そんな「黒の烈風」と並んで、オレとミハシは南の砂漠に行く事になった。
 「赤い閃光」タジマも一緒だ。4人でチームを組み、南の砂漠へ懸賞討伐に向かうんだ。

 一緒に懸賞討伐にチャレンジするか。それとも、ミハシを首都の親戚の家に戻し、保管してある『呪文書』を手っ取り早く覚え直させるか。
 どっちか選べと言われたら、やっぱ前者だ。
 だって、親戚の家は……冷たいとこなんだろ? 「家」と呼べねぇ場所なんだろ? そんなとこにミハシを、戻してぇとか思わねーだろ!?

「まだ発展途上っぽいかんな。活躍は期待してねぇ」
 と、ハルナはオレに言った。
「けど、最低限、自分の身は自分で守れよな」
 それくらいできねぇと……レンは任せられねぇ、ってのが、ハルナの言い分だった。
 二者択一とか言ってっけど、どうやらハルナも、オレが討伐の方選ぶの、お見通しだったみてぇだ。
 だから、これは……オレのテストなんだ。



 あの後。ハルナが泊まってる宿の部屋で、オレは簡単に、なりゆきを説明した。
 ミハシが、魔法の殆どを忘れてしまってる事。『呪文書』を読んで魔法を覚え、使うと同時に、記憶が少しずつ戻ってる事も。
 ハルナがミハシを見下ろして訊いた
「記憶ねーの? マジ?」
 ミハシは黙ってうなずいた。
「オレのこと、まるっきり分かんねーの?」

「う、え、と」
 ミハシは目を逸らし、ギュっとシャツの胸元を掴んだ。
 ハルナが、今度はオレに訊いた。
「で、こいつ今、何個くらい魔法使えんの?」
「25個前後っすかね」

「あーあ」

 大きなため息をついて、ハルナが目を閉じた。それを聞いて、ミハシの肩がビクンと震えた。
「レンはさ、この年で市販の『呪文書』の殆ど全部を覚えてたんだぜ。200以上の魔法が使えたってのによ」
 200以上……途方もねぇ数に、ぞっとする。そんだけ買い揃えんのに、オレの稼ぎでどんだけかかる?
 いや、それよりも。たかだか20数個分の記憶でうろたえてんのに、この先、オレはミハシを支えていけんのか?

 オレの動揺をよそに、ハルナはミハシに「悪ぃな」と謝った。
「こうなっちまったのも、崖から落ちたせーだもんな。オレがついてたのによー。覚えてっか?」
 ミハシが首を振ったので、ハルナは話し始めた。およそ、4ヶ月前の事を。


 その前の晩から、二人は山にいたらしい。火を吹いて山火事を起こし、その焼け野原に巣を作ろうとしてた、赤竜の討伐の為に。
「赤竜……」
 それは小型のドラゴンだ。でも、小型っつったって、勿論オレの手に負えるモンスターじゃねぇ。
 力量の差を思い知りながら、歯を噛み締めて、ハルナの話を聞く。

「現場に辿り着いた時にゃ、もう一面の焼け野原でよ」
 ハルナの言葉に、ミハシがパッと顔を上げた。この間……そう、蛇塚攻略の前か。ミハシはそんな夢を見たって言ってなかったか?
「レンは先に火を消そうっつったんだけど、ちんたらして逃げられちゃヤベェからさー。オリャー剣構えて、そのまま突っ込んで行ったんだよ。そしたら……」 
 ガタン!
 いきなり音を立てて、ミハシがイスから立ち上がった。目も口も大きく開けて、ゆっくりと両手で頭を抱える。
「う、オ、レ……せ、赤竜が火を吹くのを見て、あ、ハルナ、さんに『逃げて』って叫んで、そして……」
 そして、『雷雨』を。

 サンダーレイン! うなされて、ミハシが叫んだのを思い出す。
 オレがミハシを拾った日、朝から降ってた大雨は……ミハシが降らせたものだったんか?

「ぶ、無事だったですか、ハルナさん?」
 ミハシが視線をハルナに向けた。
「おー、この通り。赤竜も、雨のお陰で討伐できたし。お前こそ、怪我が無くてよかったな」
 ハルナは笑って、ミハシの頭を優しく撫でた。ミハシは嬉しそうに目を細め、オレにするように、ふひっと笑った。
 そこにいたのは、「レン」だった。

 嫉妬に狂いそうだった。
 オレ以上の絆を、見せつけねぇで欲しかった。

 この先の未来を見たくなかった。

(続く)

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あきゅろす。
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