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小説 3
IDENTITY・10
 朝メシもそこそこに、タジマに引き摺られるようにして、掲示板を見に行った。
 掲示板の前は、朝からスゲー人だかりだった。
 タジマに言われるまでもなく、一目で気付いた。他とは違う、白地に赤枠の張り紙……懸賞討伐。
 野次馬の頭が邪魔で、張り紙の内容はよく見えねぇ。けど、別に受けるつもりねぇし、読めなくても困らなかった。

 だって、悔しいけど、オレの腕じゃまだまだ無理だし。タジマみてぇな天才剣士ならともかく、こういう懸賞ものは、大人の仕事だろう。
「赤枠なんか興味ねぇよ。オレ達にゃ関係ねーし」
 オレはミハシの肩を抱き、さっさと家に戻ろうとした。けど、「違ぇーって」とタジマが呼び止めた。

「赤枠じゃねーよ。その下!」
 赤枠の……懸賞討伐の下? もう一度目を向けるが、やっぱ野次馬でよく見えねぇ。
 ちっ。舌打ちを一つして、人垣を掻き分ける。
「すいません。ちょっと、すいません」
 謝りながら、何とか掲示板の前に出て、目当ての張り紙を探した。

 赤枠の下……。
 ちらっと見た赤枠の中には、デザートライオン10頭、金貨100枚とか書かれてた。
 ワイルダーベアより、さらに厄介なモンスターが10頭。成程、そりゃ懸賞金も大金のハズだよな。
 そう思いながら、その下の張り紙に目を移す、と。

――尋ね人
 名前:レン
 年齢:16歳
 身長:165cm前後
 職業:優秀な魔法使い
 特徴:薄茶色の髪・どもり癖あり
     謝礼:金貨100枚 ――

 耳の奥で、ザアッと血の気の引く音がした。
 周りの雑音が全部遠くなって、張り紙の文字だけが目に入る。
――尋ね人。
 ミハシかも知れねぇ。でも違うかも知れねぇ。だって名前が「レン」だったし。
 けど、それ以外が……あまりにピッタリ過ぎねぇか?
 金貨100枚って、何だよ?

「スゲーな、金貨100枚かよ!」

 突然、後ろでそんな声がして、はっと我に返った。遠ざかっていた音が、戻ってくる。
 オレはもっかい人垣を掻き分け、ミハシの元に戻った。
 ミハシはオレの顔を見て、パッと笑った。
「何の張り紙、だった?」
 無邪気に訊かれて、胸がギュっと苦しくなる。
 オレはミハシの腕を掴み、急いで掲示板の前から離れた。

「あれってミハシのことじゃねぇ?」

 タジマの大声が追いかける。
 耳を塞ぎたかった。聞きたくなかった。
 自然、駆け足になる。一秒でも早く、この人ゴミから離れたくて。


 うつむいて走ってたからだろうか。
 角を曲がろうとした時、出会い頭に、鎧を来た誰かにぶつかった。
 ガシャン。
 重い音とともに、頭上から降ってくる声。

「あっぶねぇな、コラ」

「すみません」
 謝りながら見上げると……目の前の背の高い男は、スゲー驚いた顔をしてた。
 そしてオレを押しのけ、ミハシを軽々と抱き上げて言った。


「レン! レンじゃねーか。お前、捜したぞ!」


 ミハシは……その男の腕の中で、びくりと体を震わせた。
 男がミハシを見た。ミハシも男を見た。絡み合う視線。ミハシの唇が、かすかに動く。
「………」
 何と言ったか分かんなかった。何も言わなかったのかも知れなかった。永遠にも思えた一瞬の後、ミハシがじたばたと全身でもがいた。
「は、は、は、放して下、さい!」
「何だよ、怒ってんのか? 悪かったよ、すぐに迎えに来れねーでさ」
 男は親しげに言って、ミハシを地面にストンと降ろした。ミハシは男の拘束を逃れ、オレに駆け寄って抱きついてくる。

 オレはミハシを背に庇い、男の顔を睨み上げた。
「あんた、誰だ? こいつに何の用だ!?」
「はあ? お前こそ誰だっつの。さあレン、そんな奴放っといて、砂漠行くぞ」
 男はズカズカと近付き、ミハシの腕をぐいっと掴む。
「阿部君っ!」
 ミハシが男に引き摺られながら、オレの方に手を伸ばす。
 オレは大声で叫んだ。
「やめてくれ!」

「こいつは記憶を失くしてんだ。今はオレと暮らしてる。だから、手を放してやってくれ」
 連れて行かないでくれ。

 オレの言葉に……男はぼうぜんと、手を放した。

(続く)

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