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小説 3
リトルインパクト・3 (完結)
 戸田スポーツセンターに、一歩足を踏み入れて、三橋が不思議そうに言った。
「あれ、ここ、何か見覚えある……?」
「へー、来た事あんじゃね?」
 泉の言葉に、「そーそー」と同意して、田島がぐいっと、三橋の肩に腕を回した。
「ここって、オレらが生まれる前からあんじゃん。小学生ん時に来てたって、おかしくねーぞ。な?」
「う、そっか」
 三橋は納得したようにうなずき、それでもやっぱり不思議そうに、フロアの中を見回した。
 
 階段を上がって二階に着いてから、三橋が「あっ」と叫んで、駆け出した。剣道場の入り口を覗き、口をひし形に開けている。
「お、お、オレ、ここ一回、来た!」
 興奮したように顔を赤くして、泉と田島に、訴えている。

 ガキみてーだな。

 阿部は、わいわいと騒がしい9組3兄弟を苦笑して眺めながら、そういえば、と思った。
 スポセンには、阿部にも大事な思い出があった。



 4年前。母親に無理矢理連れて来られた、リーダー研修会、というイベント。そこで、不思議な少年に会ったのだ。

 人見知りで挙動不審。そのくせ、笑顔がふわっと可愛くて、運動神経が良くて。
 何より……そいつは、素晴らしい制球力を持っていた。
「お前、どこの地区? どこ小?」
 勢い込んで訊いた隆也に、レンは、隣地区の小学校名を言った。

 隆也が来年から上がるリトルシニアは、リトルリーグと同様、地域の子どもしか入団できない。しかし、レンの告げた地区なら……多分、隆也と同じチームに入れるハズだった。だったら、こんな投手を逃す手はない。
「なあ、お前、春からシニア入れよ! 一緒に野球やろうぜ!」
 レンの制球力に一目惚れした隆也は、そう言ってレンを口説いた。口説き落としたと、思ってた。

 けれど、その時確かに「うん、オレ、たぁ君と一緒のチーム入る!」と約束したハズのレンは……春になっても、夏になっても、隆也のチームに入って来なかったのだ。
 そして、秋。隆也は、レンとはまた違うタイプの投手と出会う。その投手とぶつかり、認め合い、またぶつかる中で、いつしかレンのことを思い出さなくなってしまった。



 ……そういえば、あれも剣道場だったな。

 剣道場の入り口を眺めながら、ふと思う。
 目の前では、三橋が泉と田島に、何かを熱く語っている。

「たぁ君って、いう子でねっ」

 三橋のセリフに、ドキンとした。
 たぁ君。阿部も、そんな風に呼ばれた事があった。阿部のことをそんなふうに呼んだのは、後にも先にもレンだけだった。
 レン。
 ……あれ、三橋の名前は、何だった……?

「たぁ君は、いい人なだけ、じゃなくて、運動神経、抜群、でね。ドッヂビーも、長縄も、鬼ごっこ、もスゴクてね。オレのこと、足手まといにしない、で、ずっと仲間に、入れて、くれててね。そんで、オレが的当て、したら、すごく、褒めてくれてね。キャッチボールも、してくれて、ねっ!」

 三橋は興奮して。
 どもりながらも、いつになく早口で、顔を真っ赤にして、言った。

「オレを、自分とこのチームに、誘ってくれた、んだ」

 オレ、すごく嬉しかった。覚えてる。たぁ君は、ホントにいい人だ。いい人だったんだよ………。
 三橋は、何度も何度も、繰り返しそう力説した。


 あまりの熱心さに、田島がからかうように言った。
「さては、三橋の初恋か?」
 すると三橋は、ぼっと顔を赤らめた。

「初恋っ! ううう、うん、そう、かも!」

 
 否定しないのか。
 というか、初恋って。男同士だろ。
 そう思うのに、何故か、阿部の頬も熱くなってきた。

 たぁ君に、レンって……まさか。
 阿部は、その可能性に気付いてまた、ドキンとした。
 まさか、そんな。
 いや、でも、あの制球力に、あのキョドり具合。そんな奴、この近所に二人もいるハズなくないか?
 可能性に気付いて、胸が高まり、頬が熱くなる。



「お、オレ、たぁ君と、同じチームに、なりたかった!」
 両手を握り締めて、熱く語る三橋に、阿部は「ははっ」と笑った。
 笑い声に振り向いた三橋を、じっと見つめる。

 3年遅れたけど。
 自分こそ、約束、すっかり忘れてたけど。

 ……ばーか、同じチームだぞ。と、そう思って。

「おい、廉!」
 試しに、三橋の名前を呼んでみた。

  (完)

※min様:フリリクのご参加、ありがとうございました。「中学時代(小学時代)どこかで会っていて、惹かれ合っていたアベミハ」。小学生でもいいですか、という、我がままをきいて下さって、ありがとうございます。気に入って頂ければいいのですが。

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