小説 3
リトルインパクト・2
司会役のほかにも、大学生は数人いた。
みんな、揃いのオレンジのTシャツを着て、襟元にピンマイクを付けている。
「じゃあ今日はキミ達に、幾つかのゲームを覚えて帰って貰います。キミ達は地域リーダーとして、今日ここで覚えた遊びを、そのままでも工夫してでもいいです、地域集団の中で、ぜひ活用して下さい」
司会者の言葉に、隆也はこっそりため息をついた。
うわ、面倒臭ぇ。
これは確かに、「誰でもいいから」と押し付け合われたりするハズだ。
要は、この大学生主導の下、知らないメンバーと数時間遊んで下さい、っていうイベントなんだ。
こんなとこに連れて来た母親を、ちょっと恨む。
その母と言えば、どっかのオバサンとお喋りしながら、いつの間にか姿を消していた。
子どもがここで「遊んで」いる間、どこかで休憩でもしているのだろうか。
そこからは、退屈なゲームの時間だった。
いや、大学生達は一生懸命、盛り上げようとしていたし、子ども達もまあまあ従順に指示を聞いてた。
でも、初対面なだけあって、会話が続かない。
ナナメ後ろに、なんとなくくっついて来てるレンなんか、ずっとキョドりっぱなしで、怪しい奴と化している。
ドッヂビー。
長縄跳びゲーム。
変形追いかけっこ。
退屈と言えば嘘になるが、盛り上がってるとはお世辞にも言えない。
しかし、そんな中で隆也は、意外な発見をした。
レンだ。
ぼんやりして、指示も聞き逃しがちだが、運動神経はいいらしい。
日頃、リトルリーグで体を動かしている隆也と、同程度には動ける。いや、スタミナなら、負けているかもしれない。
汗だくではぁはぁしてる隆也の横で、レンは水筒のお茶をうまそうに飲んでいる。そんなレンの様子に、隆也はちょっと、チクショー、と思った。
最後に司会者は、横タマ入れをやろう、と言った。
出てきたのは、バスケットボールのゴールボードくらいの、ダンボール。真ん中が、20cmくらいの丸に切り取られている。
その穴の後ろにはネットが張られていて、投げ込まれた物を、受けられるようになっていた。
「何だあれ」
そう呟いたのは、隆也だけじゃなかった。
みんなが口々に言った。
「手作りかよ」
「ビミョー」
そんな中、レンだけは「うお、ま、的当てだねっ」と喜んでいた。
「見て分かると思うけど」
大学生が、苦笑しながら言った。
「この真ん中の穴に、球入れの球を、入れて貰います。2チームに別れて、多く入った方が勝ち。まずお手本で、やってみたい人?」
「はいっ」
半分くらいの子ども達が手を挙げた。
残りの半分は、隆也を含め、もうダレちゃってる連中だ。
しかし隣を見て、隆也は驚いた。
今まで一緒にダレてたレンが、小さく手を挙げている!
「お、お前、どしたの?」
隆也が訊くと、レンは少しキョドって、変な顔でふひっと笑った。
進行役の大学生も、気付いたらしい。
ずっとキョドりっぱなしのレンは、多分結構、目立ってたんだろう。
「はい、じゃあ……レン君! 持ち球三つです。頑張って、穴に入れてみよう!」
まぐれで、一つ入ればいい方だ。
隆也はそう思ったし、多分みんなも、大学生も、そう思ったハズだった。
何より、リトルリーグで6年間、野球をやってた隆也には、分かるのだ。
あの穴に入れるのが、どれだけ難しいか。
レンは、キョドりながら前に出て、おずおずと球を受け取った。でも、示されたラインの上に立った途端……。
表情が変わった。
情けなく下がりっぱなしだった眉が、きゅっと上がる。
大きなつり目が、しっかりと穴を見据える。
左足が高く上がって……流れるように、大きく踏み出された。と、同時に、右腕が大きく振れた。
隆也は見た。
直径20センチの穴に、赤いボールが三つ、吸い込まれるように入ったところを。
「うおー、スゲー!」
「カッケー!」
「オレもオレもー」
子ども達が、一気に盛り上がる。
大学生に頭を撫でられて、レンはちょっと嬉しそうだ。
そして、隆也は……目をハート型にして、レンに襲い掛かった。
「お前っ! どこのチームのエースだよっ?」
しかしレンは、どこのチームにも入ってない、と言った。
どこのリトルリーグにも。
どこのクラブチームにも。
学校の部活さえ、やってないのだと。
信じられなかった。
(続く)
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