小説 3
ヒロイン×ヒロイン・7 (完結・にょたべ注意)
※冒頭、にょたべ描写あります。苦手な方はご注意ください。
背の高い、すらっとした美女が、裸のままでオレの前に立っている。
健康的な肌の色。大きくはないけど、形の良い美乳。しっかり腹筋のついたお腹、小さめの腰。長い脚。
肩を覆う、真っ直ぐな長い黒髪は、シャラッて音がしそうに硬い。
長い睫毛の下のタレ目が、色っぽくオレを眺めてる。
普通の男なら、むしゃぶりついているのかも知れない。
普段のオレなら、真っ赤になって、逃げ出していたのかも。
でも、オレがまず感じたのは……なんでかな、嫉妬だった。
完璧すぎてムカつく。
むう、と黙ったままのオレに、美女が言った。
「感想は?」
高過ぎない、落ち着いた声。できる女っぽくて、それもムカつく。
オレは顔をぷい、とそむけて言った。
「阿部君は、女じゃない方が、いい」
「何だ、それ?」
阿部君は呆れたように言って、大きな鏡の前に立った。自分の全身を鏡に映し、じろじろと眺めてる。
「こんなイイ女前にして、その感想って。お前、ホントノーマルか?」
「うお、イイ女……」
その自信はどこから来るのかな。いや、イイ女かも知れないけど。
「オレ、男の阿部君の方が、好きだ」
「はーん」
阿部君は、細いアゴに手をやって、流し目の先にオレを見た。
そんな目で見られたって、何も感じません、よー。
ふん、鼻息で返事すると、あははは、と阿部君が笑った。
「オレは、どっちのお前も好きだぞ」
「う、ん」
そりゃ、そう言われると嬉しいけど。
阿部君は、ホントは変身の施術なんて、受けなくて良かったんだ。
適正は勿論、警察での成績とか、キャリアとか、いろいろ考慮されて、阿部君は司令官候補になった。将来は、オレ達の組織のトップに立つんじゃないかと思う。
なのに、オレが背負ってるもの、全部自分も背負いたいって言ってくれて……同じように、身体の中をいじったみたい。
阿部君が、胸のドームに手を当てて、素早く左右に回し、変身を解いた。
かぽっとドームが取れると同時に、髪が短くなり、背が高くなり、肩幅がぐんと増し、胸板が厚くなる。
オレとはまた違う、逞しい筋肉。
キレイな身体だ。
裸の阿部君をまともに見て、オレは恥ずかしくて目をそらした。
「お前、その反応、逆だぞ、普通」
言うが早いか、裸の胸に抱き締められる。
太くて力強い腕が、オレのささやかな抵抗も封じてしまって、離さない。
オレだって男なのに。色々負けてるとこあっても、悔しいって思わないの、何でかな?
阿部君の鎖骨の上にある、小さなネジ穴にそっと触れる。
オレのとお揃いの、施術の痕。
変身さえしなければ、見かけ上、阿部君の身体の変わったところは、鎖骨の下のネジ穴一つ。
でもこれは、どんな指輪よりも、特別な「お揃い」だ。
オレ達が初めてキスした、あの日……。
あの後。阿部君は、上から急な配置転換を言われたんだって。
原因は、オレと接触し過ぎたからで、結局はオレのせいなんだ。うん、あの時、怒ってた人、いたよね。
警察機構と、オレ達の組織とは、あまり仲良くないらしいんだよ。
でも、構成員とか、技術の全容とか、一切が極秘扱いだから、無理もないのかな? うちだって……警察の事、あまり頼りにしてないし、信用もしてないし、ね。
阿部君はその前に、オレとちょっと、そういうやり取りがあったから。
オレのことを吹っ切れてなかったのか、っていうショックと、やっと好きになれた女の子を、傷つけたかも知れない……っていう自己嫌悪で、ぐるぐるになってたんだって。
だから、オレに協力したこと、すっごく怒られた上、嫌がらせみたいな配置転換を言われて、キレちゃったんだって。
好きな女の子一人、守ったり助けたりできない組織なんて、辞めてやるーって。
オレの為に、ごめん、って謝ったら、「お前のせいじゃねーよ」って、阿部君は笑った。
「それより、罪悪感とかで、オレと一緒にいようとか、そんなのの方が、迷惑だかんな?」
「う、それはない、よ」
うん、オレ……阿部君が警察辞める前から、多分阿部君のこと、好きだった。
阿部君に他に好きな人できたって言われて……それ、結局オレのことだったんだけど……初めて気付いたんだ。バカだよ、ね。
オレがそう言うと、阿部君は優しい顔で「そうか」と笑った。
『レンレン、ターゲット確認! 出動準備して!』
館内放送で呼ばれた時、オレはまだ裸だった。
「あわわわ」
ドームをネジ穴に差し込んでくるくる回す。
たちまち背が少し低くなり、髪がふぁさっと長く広がった。胸がぼよんと大きくなり、ウェストは細く、お尻は丸く、手足は細く華奢になる。
変身が終われば衣装を着て、駐車場行って、アグファムに乗り込み地上に出る。
ターゲットがまた何か叫んでる。
オレは適当な距離を開けてターゲットに近付き、ビルの屋上にアグファムを停めた。
いつもと同じ、戦いの日々。
でも、以前と違うのは――。
『三橋、攻撃位置に就いたか?』
管制官が、甘く低い声の持ち主に代わったこと。
『しっかりな』
「う、ん」
ターゲットをしっかり見つめ、息を吐く。
ふひ、と笑みがこぼれる。
ドームから、理性の光が浮かび上がった。
マウンドもなく、プレートもなく、バッターさえいないけど。
投げる相手は阿部君じゃなくても、今は彼も側にいて、一緒に戦ってくれるから。
オレは光の球を、まっすぐに投げた。
(完)
※てくまく様:フリリクのご参加、ありがとうございました。「警官×変身ヒーロー、普段男で変身後女。阿部はどっちかの三橋に一目惚れ」、そんな世界になってたでしょうか。ちょっとラストを迷いました。気に入って頂けるといいのですが。
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