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小説 3
IDENTITY・3
 朝メシを食ってから、ミハシと一緒にスペル・ショップに向かった。
 勿論、新しい呪文書を買いに行くんだ。
 オレとしては攻撃魔法より、昨日の熊胆みてーな生アイテムの持ち帰りに便利な、運搬魔法とか移動魔法系の呪文が欲しい。
 アイテムを、うちの冷蔵庫に直送できるような呪文とか……それかオレ達が、一瞬で家に戻れる呪文とか。

 そういう呪文書を買おうな、と歩きながら念を押すと、昨日のおしおきが効いてねぇのか、ミハシは目を逸らして「う、うん」と応えた。
 その「うん」に意味はねぇだろ。
「てめぇはー、オレの言う事聞かねーのかっ?」
 こめかみに握りこぶしを当てて、ちょっときつめのウメボシをしてやる。
 と、そこに顔馴染みの剣士が声を掛けてきた。

「よお、お前ら。掲示板見たか?」

 タジマだ。
 小柄ながら双剣を操る天才剣士。
 天才剣士ってんなら、首都辺りじゃ「黒い烈風」とかいうのが有名だそうだが、タジマはそれに対して、「赤い閃光」って呼ばれてる。
 どんな奴かってぇと……まあ、すばしっこいバカだ。

「おはよう、タ、ジマ君」
 ミハシが、オレのウメボシから逃れて言った。
「け、掲示板、何?」
「あ、まだ見てねーの? 一緒に行こうぜ!」
 田島の誘いに、「うんっ」とか嬉しそうにミハシはうなずいてっけど……。

「こら、てめぇ。オレとの買い物はどうすんだよ? 呪文書買いに行くんだろ?」

 オレは三橋の首に腕を回して、ぐいっとタジマから引き離した。
「何だよー、アベは独占欲強ぇーよな」
 タジマはちょっと文句を言って、それからにんまりと笑った。
「けどさ、呪文書買うんなら、その前に行った方が、ゼッテーいいぜ。報酬に、何かの呪文書くれるって依頼があったんだ」
「はあー? 報酬にー?」
「オレはよく知らねーけど、レアだって言ってたぞ」

「うお、レアっ」
 ミハシの目が、きらんと輝いた。
 レアな呪文書か……。
 実のところ、そういう報酬も珍しくはねぇ。
 珍しいナイフとか釣り道具とか、報酬の追加に貰った事もあるし。
 でも、ナイフや何かの小道具と違って、呪文書なんか、誰でも使えるって訳じゃねぇのに。そんな報酬欲しがる奴、いんのかな?
 あ、まあ、ここに一人いるけど。

「あ、あ、アベ君っ」
 ミハシが、うずうずとオレの腕を引っ張った。何だよ、と苦笑して、ふらふら動いてる頭を撫でる。
 そんなにレアに惹かれるか?
 けど、「前のお前」が知らねー呪文は、呪文書貰ったって使えなくね?
 それともそんな事、考えてもねーのかな?
「あー。じゃあ、まず掲示板見るだけな?」
 オレがそう言うと、ミハシは「うんっ」と、さっきとは大違いの、スゲーいい返事した。


 掲示板の前には、結構人だかりがあった。
「ほら、これだぜ」
 タジマが何故か、自慢げに指差した。ミハシは素直に、「ふおお、スゴイ」と感動してる。
 オレは二人の頭越しに、掲示板に張られた、その依頼書を見た。
 そしてちょっと、がっかりした。

――依頼:護身
  場所:西山ふもと・蛇塚奥への往復
  報酬:金貨2枚と『劫火の呪文書』――

 護身依頼。しかも、蛇塚って、毒蛇の巣じゃねーか。それで金貨2枚って、安いだろ!?
 まあ、それを補う為のレア呪文書なんかも知れねーけど、確かにレアだけど!
 でも、『劫火』……。
 『火球』だけでうんざりなのに、この上『劫火』。

「うお、あ、アベ君、オレ、これ欲しい!」
 興奮して鼻息荒くなってるミハシを、横目で睨んでため息をつく。
 一面の焼け野原が、簡単に目に浮かぶ。
 ぶるぶる、と頭を振って、オレはミハシに冷たく言った。
「却下!」
 ふええ、とミハシが泣く。
 泣いたってムダだぞ、と背を向ける。

 それを待っていたかのように……タジマが言った。
「アベが行かねーなら、オレと行くか、ミハシ?」

 オレが「はあっ!?」と叫ぶのと、ミハシが「行く!」と言ったのと、ほぼ同時だった。
 タジマがオレに、にんまりと笑った。

(続く)

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あきゅろす。
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