小説 3
ヒロイン×ヒロイン・4
阿部君は、すぐに折り返し電話をくれた。
『三橋! ホントに三橋なのか!?』
「うん……久し、振り」
『何でずっと、誰にも連絡しなかったんだ? みんな心配してたんだぞ!』
それを言われると、ちょっと胸が痛い。でもオレは嘘が下手だし、色々秘密を抱えたままで、平気な顔して会えないよ。
『そのくせ突然、オレに会いてぇって? どうした、何かあったんか?』
阿部君の声が穏やかに響く。
何かあったのは、阿部君でしょー?
オレは、単刀直入に訊くことにした。
「阿部君、何で警察、辞めた、の?」
阿部君は一瞬黙り……ため息と共に言った。
『電話じゃ話せねぇ』
だからやっぱり、会うことになった。
阿部君は埼玉の実家に戻っていた。
今はまだ、今後の事とか、何も決めてないらしい。
何年か振りに訪れた阿部君の部屋で、阿部君はオレに言った。
「高校ん時から、お前がずっと好きだった」
「え、でも、オレ、男だよ?」
オレがきょとんと応えると、阿部君はちょっと照れたのか、そっぽを向いた。
「……っかてんよ。だから今まで言えなかったんだろ」
「ふへへ、そっか」
そんな照れてる阿部君が可愛くて、つい笑ってると、「てめぇ……」と一つ、舌打ちされた。
「……驚かないんだな」
「ふえ?」
「オレ、男同士なのに、お前の事好きっつってんだぞ」
「う、うん」
だって、知ってるし。一目惚れした、って告白されたし。それに、キスだってしたじゃないか。
……って、あれ、そっか、あの時は女の子の姿だったっけ?
あれ、えと、じゃあ、阿部君が好きなのはどっちのオレ? 男? 女?
高校の時ったら、まだ普通に男だよ、ね。でも、うと、キスしたのは……?
あの時、オレのこと「三橋」って呼んだのは……?
「オレさ、スッゲー悩んだんだぜ。だってお前、ノーマルだろ?」
「う、うん」
阿部君に言われて、こっくりとうなずく。
確かにオレ、女の子の方が好きだ。
「でもオレはさ、お前以外誰も好きになれなくってさ。もう一生、恋愛とかムリかも知れねーって思って。じゃあ仕事に生きてやるぞーつってさ」
「うお」
もしかして、それが警察キャリア目指した理由? う、確かにやりがいはありそうだけど。
でも阿部君は格好いいし、頭もいいし、モテるハズなのに。もう恋愛しないなんて、もったいないな。
そうぼんやり思ってると、阿部君が言った。
「けど、最近オレ、好きな女できたんだ」
「ふえっ」
驚いて顔を上げると、阿部君が、すごい優しい顔してた。
何でかな、ズキン、と胸が苦しくなった。
「そ……っか」
そっか、だから「悪ぃ」なんだ。
オレとのキスは、間違いで、だから「忘れてくれ」なんだ、そっか。
オレ、うん、男だし。女の子の方が好きだし。
どっちみち、阿部君の気持ちには応えられないんだから、これでいいんだ。
好きな人ができたなら、それでいい。
「それが……警察辞めた理由なの?」
仕事より大事な恋愛見つけたって事?
辞めたの、あのキスの次の日だったっけ。
あ、それとも、その人の為に辞めたのかな?
それか、オレの顔、もう見たくなかったのかな?
でも、別にどうでもいいけど。
阿部君が幸せな恋、見つけたなら、もういいや。
「三橋……?」
阿部君が、ちょっと焦ったように言った。
「何でお前が、そんな顔するんだよ?」
そんな顔、って……どんな顔?
ぼんやりと考えてた時、ズシン、と地面が震えた。
地震じゃない。
何か巨大なものが、暴れている地響き。
「バケモノ!?」
マイナスの欲が、この近くで肥大化したんだ! オレと阿部君は、互いに顔を見合わせた。
と、そこへ充電済みのケータイが鳴った。
『レンレン! 急いで支度して! ターゲットはすぐそこよ』
「うえ、でも、オレ今日非番……」
『非番なんかある訳ないでしょ! ドームは持って来てるんでしょうね!?』
ドーム、確かに持って来てるけど。
どうすんの、どこで変身するの?
大体、オレ、今、そんな気分じゃないんだけど。
オレは、ため息をついて立ち上がった。
「阿部君、トイレ、貸してくれ」
(続く)
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