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小説 3
ヒロイン×ヒロイン・3
 優しく唇が触れ合った。
 ちゅっと吸われる。
 うわ、オレ、阿部君とキスしてる!?
 でも、えと、ちょっと待って。
 えっと、ええっと、ちょっと待って……。

 ぐるぐるしてると、一旦、唇が離れた。
 コンクリの上に広がった髪を、阿部君の大きな手で優しく撫でられる。
 そして、阿部君が苦しそうにオレを呼んだ。
「三橋……」
 再び寄せられる顔。熱い息。
 うわ、またキスされる……?
 そう思って、でも、あれ、ちょっと待って。
「えっ」

 今、阿部君、お、オレの事、なんて呼んだ?

 思わずぱちっと目を開けると、阿部君と目が合った。
 はっと、阿部君が息を呑む。
「悪ぃ……」
 口元を覆いながら、阿部君が呆然とした顔で身を起こす。
 そして、もっかい言った。
「悪ぃ」

 な、何を謝ってんのかな?
 キスしたことかな?
 えっと、オレはホントは男で、阿部君の元・相棒で、だからキスするのはおかしい間柄だけど……でも今のオレは女の姿で、告白もされてて、屋外だけど二人きりで、こんな無防備に押し倒された状況だから、阿部君とキスしても、おかしくはない、よね?

「何を、謝る、の?」
 オレが体を起こしながらそう聞くと、阿部君はオレに深く頭を下げて、「忘れてくれ」と言った。

 そして、それっきり阿部君の姿を見なくなった。




 今日のバケモノは、電卓だ。巨大な電卓に、短い手と足がついてる。

   ワリキレネー

 何となく、イヤな言葉だ。
 でも、口がないのに、どこで喋ってるのか、な?
 アグファムを運転しながら、右手を胸元に当てる。
『レンレン、ターゲットの口は、もしかしてソーラーパネルなんじゃない?』
 瑠璃の声がイヤホンから聞こえる。
「う、了解」
 ビルの屋上にアグファムを停めると、ターゲットの叫びがもう一度響いた。

   ワリキレネー

 今のオレの気持ち、代弁してるみたいで、悔しい。
 オレだってそうだよ、って強く思う。
 誰だって、割り切れない思い、抱えてる事はあるんだ。キミだけじゃないんだよ。オレだってそうなんだよ。
 そんな事考えながら、理性の光を右手に持つ。
 阿部君がいなくても。
 ソーラーパネルに狙いを定め、大きく振りかぶって、球を投げた。

 パネル全体が、一瞬ミントグリーンに染まって……。
   ワリキレネ……
 断末魔の声と共に、その電卓は収束して、元の人の姿に戻った。

 いつもなら、そのまま本部に飛んで帰っちゃうんだけど。
 今日は、警察の人達に、自分から声を掛けてみた。
「あの、阿部警部補、は、どうされました、か?」
 すると、警官は少し顔を曇らせて、抑えた声で教えてくれた。
「辞職されました」
 って。
 日付を聞くと……あのキスの、翌日のことだった。


 訳が分かんないよ。
 何で阿部君が辞職なんて?
 だって、警部補、でしょ? この年で警部補って言ったら、キャリアでしょ?
 いっぱい勉強して、すごい難しい上級試験受かって、それで頑張ってたのに。
 
 キスしたくせに。
 ……何で?



 ケータイは、ずっと封印してた。
 オレの身体の変わっちゃったとこ、は、ネジ穴一個だけじゃないから。……もう公式戦とか、何も出られないような身体になっちゃってるから。
 だから、阿部君だけじゃない。田島君にも、泉君にも、誰にも……ずっと連絡してなかった。

 でも、現場で阿部君と再会できて……話もちょっとするようになって……嬉しかった。
 追いかけられて、一目惚れしたって言われて……戸惑ってたけど、嬉しかったんだ。
 ホントだよ?


 ピー。充電終了を告げる音が鳴った。
 久し振りにフル充電したケータイを開く。
 アドレスの1番最初は、8年間変わらない。
「阿部君」
 オレは阿部君に、メールを打った。

 ……会いたいって。

(続く)

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