小説 3
IDENTITY・1 (RPGパロ)
荒れ野には、モンスターが多い。
モンスターが多いってのは危険だが、手っ取り早く金を稼ぎたい連中には、お手軽な狩猟場だ。
オレとミハシなんてのは、そのいい例で、わざわざモンスターに出くわしてぇ為に、街道を通らなかったりする。
「自分の腕を過信し過ぎんなよ」
とか、ベテランの賞金稼ぎに忠告される事もあるけど、オレ達の目的は腕試しだけじゃねぇんだ。
一番の目的は……金だった。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
ミハシが叫ぶと同時に、右手の杖から火球が次々現れ、目の前のモンスターを襲った。
断末魔の声を上げて、クマのような大型モンスターが消し炭になる。
あ、勿体ねぇ。
……とか思ってる場合じゃねぇ。それと同じモンスターが、オレ目掛けて、ブンッと長い爪を振り回す。
オレは攻撃を間一髪でかわし、モンスターの急所に剣を突き刺した。
モンスターがこっちに向かって来る、その力を利用しながら、深く刺す。毎度ながら、腕の筋肉がブルブル震えるくらいの負荷だ。
やがて、ドサッ、と重そうな音を立てて、モンスターが地に倒れた。
オレは大きく息を吐いて、剣を収め、ひざまずいた。
「あ、アベ君、怪我は、ない?」
ミハシが、てててっと走って来て、オレに尋ねた。
「おー、ねぇぞ」
ミハシの問いに簡単に答え、剣の代わりにナイフを取り出す。
このワイルダーベアってモンスターは、毛皮も肉もイマイチだが、熊胆っていう薬の材料が採れて、高値で売れるんだ。
ただし、消し炭にしちまうと、何も採れねぇ。たまに宝石なんかが練成される事はあるけど、ホントに「たまに」だ。
だからミハシには、日頃から『火球の魔法』を使い過ぎるな、って言ってある。
その度にミハシも反省して、「次からは気をつける」とか言うんだが、やっぱ実際にモンスターを前にすると、ダメみてぇだ。
こいつは加減ってモノができねぇ。敵は殲滅すべし、って、体が覚えちまってるらしい。
一体、以前はどんな暮らしをしてたんだろな?
知りてぇけど、それはミハシにも分からねぇ。
ミハシは……記憶を失くしちまってんだ。
オレ達が出会ったのは、3ヶ月くらい前のことだ。
朝からスゲー雨が降ってた。
その頃、オレは一人で行動する事が多くて、その日も一人で川に行ったんだ。
大雨の日は、普通みんな、川に近付かねぇ。増水してっし、鉄砲水とか怖ぇもんな。
けど、増水した川よりも、山上の方がもっと危険で……そんな山上に行かなきゃ採れねぇような、水晶や宝石の原石なんかが、大雨で流れて来てたりするんだよ。
そういう原石目当てで川に行き……原石の代わりに拾ったのが、ミハシだ。
川の真ん中を、半分沈んだような状態で、人が流れて来るの見た時は、ホント慌てた。
深いとか、流れが速くなってるぞとか、そんなことは頭から消えて、気が付けば救い出していた。
勿論、原石拾いは中止だ。
数個のルビーだけをポケットに入れ、ミハシを背負って、町まで帰った。
かなり上流から流れて来たのか、服はボロボロで、体はスリ傷だらけだったけど……よっぽど大事だったんかな、古い魔法の杖だけは、右手にしっかりと握ってた。
正直に言うと、町まで運んで医者に診せて、それでお別れのつもりだった。
だって、別に面倒見てやる義理はねぇし。
けど、記憶を失くして、真っ青な顔でぶるぶる震えて泣いてるこいつを……何でか、放って置けなかったんだよなぁ。
採った熊胆を油紙に包み、鞄に入れて、立ち上がる。
「さあ、帰るか?」
ミハシにそう言って笑った時……。
いつの間にか、囲まれていた事に気が付いた。
「アベ君……」
ミハシが、震えながらオレの服をギュっと握った。
ワイルダーベアの血の臭いに、寄って来たんかな?
集団で狩りをするネズミ、ワイルダーマウスだ。
一匹一匹は小さくて弱いザコだけど、集団で来られると、ちょっとヤベェ。
「大丈夫、オレがついてっから」
震えるミハシの肩を抱き、こんな場合じゃねぇけど、唇に軽いキスをする。
そうすると、ミハシの肩から力が抜け、リラックスできるって知ってんだ。
思った通り、ミハシは震えながら、ちょっと笑った。
「いいか、逃げられりゃそれでいーかんな。さっきの要領で、ファイヤーボール3連発、頼むぞ」
オレの指示に、ミハシはうなずいた。
けど、ワイルダーマウスが距離を詰め、オレが「今だ!」と叫んだ瞬間、ミハシが叫んだ呪文は……。
「ファイヤーサークル!」
火柱の円を地に描き、周囲のモンスターを殲滅しちまう魔法だった。
(続く)
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