[携帯モード] [URL送信]

小説 3
ヒロイン×ヒロイン・1 (警察官×変身ヒーロー・にょた注意)
 オレ、三橋廉、23歳。性別・男。趣味は野球、特技は9分割。
 ワケあって……魔法少女、やってます。


『レンレン、ターゲット確認。準備OK?』
「は、い」
 ワイヤレスイヤホンからの指令に、短く答えてハンドルを操る。
 オレが乗ってるのは、日本の誇る最新式の空飛ぶバイク、Anti-Gravity-Floating-Advanced-Motorcycle。略してアグファムって呼ばれてる。
 反重力装置で空を飛ぶから、速いし渋滞関係ない。ただし、あまり長くは飛べないんだ。

 アグファムにまたがって商店街の屋根を走ると、長い髪がばさばさと風にあおられ、ミニスカートがふわっと広がる。うう、足元がスースーする。
 屋根から地面にブォンと飛び降りてブレーキをかけると、そこにいた警察の人達が、おおーっと言った。
 どうやらミニスカートの中が見えちゃったらしいんだけど、オレ男だし、別に平気。っていうか、それどころじゃない、しっ!

「うわっ」
 ターゲットから何か飛んで来て、慌てて右斜め前に移動する。
 うお、オレのいた場所、黒く変色しちゃったぞ。
『気をつけて、相手は墨を吐くみたい!』
 うう、そんな事、見れば分かるよ。

   スミクラエー

 ターゲットが叫んでる。
 五階建てのビルくらい大きな、イカのお化けだ。青白い体に、ヒラヒラつきの三角の頭、うねうねと動く足がたくさん!
 でも、これは人間なんだ。
 欲に取り付かれ過ぎると、こんな風になっちゃうんだって!

 もう一度、墨が飛んでくる。
 オレはアクセル全開でそれをかわし、道路を走って、できるだけターゲットに近付く。
 その間、右手は胸に当てたままだ。
 少女姿のオレには、深い胸の谷間より少し上に、ミントグリーンの半球体がくっついてる。
 そのドームから、ふわんふわん、と光の球が浮かび上がった。
 これ、オレの武器。理性の光だ。
 オレの特技は、コントロールのイイ投球だから、もちろん武器も、野球ボールのイメージ。
 ただ難点は、アグファムに乗ったままだと、投げられない、こと!

「むおっ」
 片手でアグファムを操作し、素早く浮かび上がってビルの屋上に降り立つ。と、そこにすかさず墨攻撃!
「ふえっ」
 横にスライディングして、間一髪交わす。あ、ちょっと足擦り剥いたけど、構ってる場合じゃない。
 立ち上がると、投げ方は体が覚えてる。
 セットから、ターゲットを見る。
 狙うのは頭部。できれば口の中。
 ふ、と息をする。左手にグローブは無いけれど、振りかぶって、肩上げて、体重移動、着地と同時に、投げる!
 オレの投げた理性の光は、まっすぐに空を切って、ターゲットの口の中に命中した。

   オオオーンン
 ターゲットの断末魔の声が響く。
   スミクラエ………
 肥大化した欲が収束し、それと同時に、お化けイカも元の人間の姿に戻った。



 人間の欲には、プラスのとマイナスのがあるんだって。
 美味しいもの食べたいとか、いい服を着たいとか、ステキな恋人が欲しいとか……そんな前向きな欲は、プラス。
 仕事サボりたいとか、あいつ引っ込めとか、他人のものを奪いたいとか……そんな後ろ向きの欲は、マイナス。
 そのマイナスの欲が、大きく大きく、強く強くなって、持ち主の手に負えなくなった時……あんな風な、バケモノに変身しちゃうんだって。

 それでオレは今、こういう人達を正気に戻す、みたいな仕事をしてるんだ。
 方法は、理性の光をぶつけるだけなんだけど……。これ、結構大変なんだよ。
 他の人に当てちゃったら、逆に無欲な人間になっちゃって、それはそれで困るから、絶対に外しちゃダメなんだ。

 オレは高校・大学で野球をやってて、コントロールのすごくいい投手、だった。それを見込まれて、スカウトされた感じかな。
 全国には他にも仲間がいて、クレー射撃の選手とか、流鏑馬やってた人とか。武器はやっぱり理性の光で、光る銃弾とか、光る矢とかを使うんだって。
 勿論、誰にも内緒、だよ。
 だって、これは国家プロジェクトだから。
 そして、だから、仕事する時は……絶対ばれないように、変身させられる。

 絶対正体がバレない変身。
 それが……オレが魔法少女になってる理由なんだ!



『ターゲット収束確認。レンレンご苦労様、戻って下さい』
「は、い。了解」
 オレはふうう、とため息をつき、アグファムのところまで戻ろうとした。
 すると、バーン、とそのビルの屋上の扉が開いた。
「おい、お前! ちょっと待て!」
 ハリのある声が響いて、ドキンとする。
 さっき下にいた、刑事さんの一人で……オレの知ってる人だった。

「あ……」

 阿部君、とその人の名前を呼びそうになって、慌てて口を押さえる。
 だって、オレの正体は、誰にも内緒だ。
 例え……高校時代、バッテリーを組んでた仲間でも。

 阿部君の担当地区は、オレの出動地域と重なるみたいで、顔を合わせるのもこれで10回目くらいになる。
 オレは女の子に変身してて、髪だって長いし、胸も大きいし、体つきも細いし、声だって違ってるから、絶対バレないと思うけど。
 でも、今みたいに名前を呼んじゃいそうになって、毎回焦ってる。

 しかも阿部君、何が気になるのか分からないけど、毎回オレの事、追い掛けて来るんだ。
 一目惚れした、って、前に言われたけど……えー、ホントかな?
 っていうか、ビミョーだな。
 オレ、今は女の子だけど、元々男だし。
 やっぱり、女の子の方が好きなんだけど、な。


「あ、お前、足……」
 阿部君が、さっき擦り剥いたヒザに気付いたみたいで、顔色を変えた。
「バッカ、血ィ出てんじゃねーか!」
「う、ごめん、なさい」
 相変わらず、怒るとコワイなぁ。
 思わず身を竦めたオレの足元に、阿部君がすっとしゃがみこむ。
 そして………。
「あわわわわ」

 な、な、舐めた! あ、阿部君、オレの擦り剥いたヒザを舐めた!
 その上、懐から清潔そうなハンカチを出して、オレのヒザを縛ってくれる!

 い、意識しちゃうオレがおかしいの?
 オレの動揺なんてお構い無しで、阿部君は爽やかな笑顔さえ浮かべて、すっと立ち上がった。
「これでよし。お前、投球には足大事なんだからな! ケガとか軽々しくすんじゃねーぞ?」
「う、は、はい」
 あ、阿部君、いい人だ……。
 昔なら、すかさずウメボシだったのに。こんなに穏やかで優しいのは、やっぱ大人になったからかな?
 それとも……オレの事、女の子だと思ってるから、かな?
「ありがとう、あ……」
 阿部君、とまた言いそうになって、口を押さえる。

「いーよ、礼なんて。それよりさ、教えてくれねー?」
「う、と、な、何を……?」

 何だろう、何聞かれるの? 名前?
 三橋、って名乗っちゃヤバいよね。レンレン、くらいなら教えてもいいかな?
 そうぐるぐる考えてたオレに……阿部君が言った。

「なあ、お前、誰に教わったの、投球? オレの知ってる奴とさ、投球フォームが激似なんだけど?」

(続く)

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!