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小説 3
アフター9の恋人・9 (完結・後半ちょっとR18)
「シュレッダーの中身、改めさせて頂きます」
 畠が、慣れた様子でフタを開ける。
 回転刃に食い込んだまま、停止している書類は……また、持ち出し禁止の書類のコピーだったりすんのかな。

 シュレッダーは、実は壊れてなかったらしい。
 最上階の内部調査室には、修理中のハズのシュレッダーが置かれてた。
 調子が悪くなったのは偶然らしいんだが、それだって、1課の課長が大量の書類やCD−ROMを、いっぺんに突っ込んだからだし……あながち、無関係じゃなかったんかもな。
 代替機が旧式だったのは、わざとだって。
 機密保持には不向きなくらい、荒いカットしかできねー機種で……どうするか、っつったら、勿論パズルだ。

 三橋は相手を油断させる為、辞めさせられた風を装って、ずっと最上階に閉じこもってたんだ。
 そこで、荒いシュレッダーにかけられた書類を、延々と復元して回ってたらしい。
 そして見付けたんだ。持ち出し不可のハズの資料のコピーと、ヘッドハンティングに関わる先方からの依頼書……いわゆる、「お土産リスト」を。

「これ、貴方のですよね?」
 叶が、復元した「お土産リスト」と、「複製不可」とスタンプの押された資料のコピーを、1課の課長の前に差し出した。
 同時に、シュレッダーから救出された書類も、畠によって暴かれる。
「何で、複製不可の書類のコピーを、貴方がシュレッダーにかけてたのか。お話を伺わせて下さい」


 言い逃れできねー状態に、課長はちっ、と舌打ちをした。
 そして……自分の課の、自分の部下を指差した。
「じゃあ、こいつも調べろ。半年前から機密漏えいしてたのは、こいつなんだから!」
「課長!?」
 1課の社員は、血相を変えて立ち上がった。
 そして、ハッとオレの方を振り向いた。
「阿部、お前がバラシたのかっ?」
 うわ、そこでオレの名前呼ぶの、やめてくれるかな。
「知らねーよ」
 オレだってビックリだ。
 まさか知ってるとは思わなかった。
 じゃあ、部下が漏えいしてんの知ってて、何もしなかったのか、この課長は。
 見て見ぬふりするんなら、最後まで黙ってるべきだろうに……こんな風にバラすなんて。普段冷静な人でも、追い詰められっと何するか分からねーな。

「阿部ぇ!」
 今度はその1課の奴が、オレの元に駆け寄って来た。そして、ぐいっと胸倉を掴まれる。
「皆、聞いてくれ! こいつだって仲間だ! しかもこいつ、内部調査があるって事まで知ってたんだぞ!」
 ああ、とオレは顔をしかめた。
 やってくれた。やっぱ人間、追い詰められっと、何するかワカンネー。

 オレの周りが一気にざわめく。
「阿部君、本当かね?」
 うちの2課の課長が立ち上がる。
 ざわめき始めたオフィスを、再び静かにしたのは、三橋だった。
「違い、ます!」
 この細い体のどこから出るんだっつー大声で、三橋が言った。

「阿部君、は、オレ達の、仲間、です!」

 作業服じゃなくて、上品なスーツだったけど……三橋が、あの時の清掃員だって、何人かは気付いたようだった。
「キミは誰だね?」
 2課の課長が訊いた。
「内部調査室、室長、兼、清掃員の、三橋廉。そして、阿部君の仲間、です」
 三橋はゆっくり、はっきり答えながら、オレの顔をしっかり見た。
 仲間って言われて嬉しかったけど、オフィス中の視線を浴びれば、やっぱ苦く笑うしかなかった。

 だって……内部調査の人間って知られたら……そりゃ、機密漏えいの犯人よりは、マシだけどさ。でも、このオフィスには、いられなくね?

 オフィスの入り口には、警備員が待機してた。
 すでに1課の課長は、廊下の方に出されてる。
 こっちにも警備員が二人、オレの胸倉掴んだままの、1課の社員を迎えに来る。
「阿部! てめぇ、ハメやがったな! クソ野郎!」
 左右を警備員に挟まれ、そいつがオレに怒鳴った。
 バーカ、負け犬の遠吠えっつーんだぜ、そういうの。とは……言えなくて、小さく謝った。
「悪ぃな」
 けど、そいつからの返事はなかった。


 
 二人の造反者を、社長以下の取締り役執行部に引き渡し、オレ達の仕事は終わった。
 どういう懲戒処分にするのかとか、また会議で決まるんだろうけど、オレ達にはもう、関係ねぇ。
 畠と叶は、三橋の祖父に報告すると言って、群馬に行った。

 そして夜、二人きりの、内部調査室。
 肌を打ち付ける音と、荒い呼吸と、三橋の甘い啼き声が響く。
「あっ、あっ、ん、いい……」
 重厚な黒テーブルに、白い肌が映えてキレイだ。
 誰も邪魔しに来ねぇって分かってっから、三橋は全裸。オレも上半身だけは裸だ。
 ここが社内だとか。職場だとか。そんな背徳感、オレ達にはもうなかった。
 防音も効いてっから、どんな騒いでも大丈夫。

「あっ、スゴイ、いい、よぉ」
 三橋がむせび啼いて、イヤイヤと首を振る。
 快感に耐えて仰け反る背中に、たまらずそそられて、舌を這わせる。
 背骨に沿って舐め上げると、三橋が一際高い声を上げた。
「あああっ、んっ、はっ、あっ、好きっ、好きぃっ……」
 最中のときの三橋は、ホント可愛くて好きだ。
 昼間、オフィスで見せた凛々しさとは真逆だな。
 でもこんな可愛いこいつは、オレだけが知ってればいいと思う。


 ネクタイは外したまま、Yシャツだけ羽織って、同じ格好の三橋をヒザに抱く。
 三橋は肩で息をしながら、オレの首に腕を絡めて、オレに全部を預けてくれる。
 場所とイスが違うだけで、やることは一緒だ。気持ちも一緒。
 だって、こいつが慣れない仕事、頑張ってんのも同じだし。オレはそれを見て知ってっから。

「あ、そーだ、阿部君」

 三橋が少し身を起こし、オレの顔を見つめて言った。
「あのね、明日、辞令出る、から」
「んー、辞令? オレの?」
「う、ん」
 お、三橋が目をそらした。眉が下がってる。言いにくい内容か?
「相談なし、に、決めちゃって、ごめん、なさい」
「先に謝んな。どんな辞令?」
 悪いようにはされないって、信じてっけど……離れ離れになんのは、ちょっとイヤだな。

 三橋のあまりの歯切れの悪さに、地方勤務、の4文字が浮かぶ。
 遠距離恋愛とか、オレ、耐えられそうにねーんだけど?
 しかし、そんな事考えてたオレに、三橋が言いにくそうに告げたのは、真逆の辞令だった。
「あの、阿部君は今後、会長預かり、て事になり、ます」
 会長預かり? ……って、三橋のじーさんか?
 うわ、もしかして群馬勤務とか? それとも何?
「何だよ、もったいぶんな。どういう意味?」
 ちゅ、と軽くキスして促してやると、三橋は顔を赤くして、オレの耳に囁いた。

「あの、あのね、これからずっと、オレの側で働いて下さい」

 はは、何だそれ?
「プロポーズ?」
 意地悪く訊いてやると、「違っ……」と小さく身を竦める。
 ホントはピンと来た。
 多分、側近ってことだ……叶や畠と同じ。

 オレはヒザの上の恋人を強く抱き締め、形の良い耳たぶを噛んだ。
「あっ」
 ビクン、と仰け反った背中をゆっくりとさすりながら、敏感な耳元で、もう一度訊く。
「なあ、プロポーズじゃねーの?」
 そうだって言うまでやめねーぞ。意地悪く囁きながら、白い喉に唇を這わすと……三橋がちょっと上擦った声で言った。
「そう、だけど、やめない、でっ」

 オレは勿論、それに応じた。

  (完)

※ソメイヨシノ様:フリリクのご参加、ありがとうございました。「残業する会社員阿部×お忍び清掃員三橋」ですが、何か背景設定を中途半端に描いてしまったので、できそこないの企業サスペンスみたいになってしまい、申し訳ございません。もしご希望があれば、具体例を決めて、もう少し詳細描写を加えることもできますので、おっしゃって下さい。ただ……アベミハ具合は、変わりませんけどね(大汗)。

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