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小説 3
無自覚でいられたら・2
 学生生活は思ったより忙しくて、1ヶ月があっという間に過ぎてった。
 篠岡とも、付き合って1ヶ月になる。
 けど、付き合うつっても、ホントに特別な事は何もなかった。

 一緒にどっか行くどころか、並んで歩いた事も多分ねーし、手だって繋いだ事もねぇ。
 メールだって、オレは元々頻繁に返す方じゃねーから、何通貰っても、1日に1回返すか返さねーかって感じだった。
 それでも文句言われなかったんだから、篠岡だってオレからの返信を、毎回期待してる訳でもねーんだろう。

 オレは三橋と同じく野球部の寮住まいだから、自宅通学の篠岡とは、一緒に登校することもなかった。
 篠岡には、野球部のマネジやるの遠慮して貰ったから、放課後だって接点はねぇ。
 同じ講義を受けてたって、やっぱ堂々と隣に座ろうとは思わなかったし、篠岡からも誘われなかった。

 もし篠岡から、「たまには隣に座ってもいい?」とか訊かれたら、多分断らねぇと思う。
 けど、自分からわざわざ誘おうとは思わねぇ。
 一緒に座ったって、講義が楽しくなるとか有り得ねーし。むしろ逆に、三橋の視線が気になって、集中できねーに違いねぇ。

 万事がそんな調子だった。
 昼メシだって、一緒に食うとか、考え付きもしなかった。

 唯一、付き合ってるっぽい行動と言えば、キャンパスですれ違った時に、篠岡が手を振ってくる事だ。
「阿部君!」
「おー」
 黙って手を振り返してやる時もあるし、「よぉ、今から?」とか声掛ける事もあった。
 少なくとも、無視はしなかった。

「千代ちゃんの彼氏?」
 篠岡の友達が、そう訊いて来る事もあったし、逆もあった。
 実際そうなので、否定はしなかった。
 ただ、自分から吹聴もしなかった。
 ……そういうの、三橋の耳には入れたくなかった。


 けど、三橋とは、どんどん距離が離れて行く一方だった。
 寮の二人部屋で同室だってのに、「おはよう」「おやすみ」以外の会話がねぇ。
 部活中だって、必要最小限しか話さねぇ。
 もしかして避けられてんのかな、って、1週間目にはさすがに気付いた。

 でもその時は、一過性のモンだろうって思ってた。
 何しろオレ達は、甲子園出場バッテリーだ。
 残念ながら優勝は出来なかったけど、ベスト8だし。これでも「稀に見る相性の良さ」とか言われてたんだ。
 またバッテリー組んで、また試合で勝たせてやれば、三橋の機嫌も直るだろうって、甘く考えてた。


 それはホントに、甘い考えだった。
 三橋の捕手はオレだって、うぬぼれてた。
 当然のように、またバッテリー組めるって。
 違うんだ。
 三橋は高1の時みてぇな卑屈な奴じゃねぇ。ダメピでもねぇし、ヘロ球投げる投手でもねぇ。
 一度ブルペンで壁をやれば、どの捕手も三橋と組みたがった。

 その気持ちはよく分かる。

 構えたところに、ドンピシャで来るボール。
 多彩に投げ分ける変化球。
 100球ぐらいじゃ、途切れねぇスタミナ。
 限界を認めねぇ向上心。
 野球に対する、ひたむきさ……。

 三橋は上級生とバッテリーを組んで、早々に練習試合のマウンドに登った。
 3回の途中からリリーフで出て、9回まで投げて2失点。
 1年の春、初マウンドの成績としちゃ、充分な及第点だった。

「オレが捕手なら、三橋を甲子園優勝投手にしてやれたのになぁ」

 先輩捕手の一言が、グサッと胸に突き刺さった。
 三橋は、キョドキョドと視線を泳がせ、はくはくと口を開けたけど……結局何も言わないまま、眉を下げてうつむいた。

 三橋、てめぇ、認めんのかよ!?

 胸倉引っ掴まえてガクガク揺すって、問いただしたかった。
 けど、できなかった。
 「そんなこと、ない、よっ」って、息せき切って言ってくれるような気がしなかった。
 笑って貰える自信がなかった。

(続く)

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