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Season企画小説
DOLLと製作者のハロウィン (2017ハロウィン)
※この話は、レン廉レンレンレンタカレンレン の続編になります。



 学校から帰ると、歯磨きDOLLのレンが妙な服を着せられてた。
 魔女みてーな黒いとんがり帽子に、裾まであるような黒の服。1cmくらいの杖みてーなのを右手に持って、にこにこ笑いながら振り回してる。
「おかえ、りー」
 テーブルの上をてててっと走って出迎えてくれる様子は、毎日見ててもすげー可愛い。
「おー、可愛いな。何?」
「魔、法使いっ」
 「えいっ、えいっ」って杖をぶんぶん振り回しながら、機嫌よさそうに笑うレン。
 レン自体、全長2cmくらいしかねーから、そんな杖でもすげーデカく見えるから不思議だ。
 前につまようじでバット作って貰ってたけど、この杖もつまようじか?
 気になって、ひょいっと杖を掴み上げたら、そのままレンまでついて来た。一瞬キョトンとした後、きゃっきゃっと笑ってんのも相変わらずの可愛さだ。

 手のひらに乗せて、すその長い服をめくってやると、中にはいつものつなぎを着てて、ちょっぴり残念な気分になった。
「色気ねーなぁ」
 くくっと笑ってると、横から「タカ!」って母親に怒られた。
「もうっ。何するのよ、バカ。エッチ」
 べしっと肩を叩かれて、手のひらからレンを奪われる。
 別にDOLLの服の下を覗こうが、裸に剥こうが、どうでもいいと思うけど、そういう問題じゃねーらしい。
 とんがり帽子の上から人差し指で頭を撫で、「ひどいわよねー」なんてレンに話しかけてる母親も、相変わらずこのDOLLに甘々のようだ。
「さっさとカバン置いてきなさい。今日は研究室行くんでしょ?」
 追い立てるように手を振って、オレを2階に行かせる様子には、レンの半分も甘さがねぇ。
 やれやれとため息つきながら、言われた通りエナメルバッグを自分の部屋へと置きに行く。母親の言う通り、今日はDOLLの研究室に行く予定だった。

 DOLLっつーのは、世間で広く汎用されてる動く樹脂人形のことだ。三星コーポレーションって企業がほぼ独占で製造してて、最先端の研究室もそこにある。
 なんでオレがその研究室に出入りしてんのには色々理由があるけど、1番の理由は、レンのオリジナルである天才技術者と知り合ったからだ。
 ソイツの名前は、三橋廉。オレと同じ年の18歳で、立派な研究員の1人だった。

 電車に乗って研究室に向かうと、レンと同じ顔・同じサイズの歯磨きDOLLのレンレンが、てててっとオレらを出迎えてくれた。
「とりくん、おー、とりくん、とー」
 レンと似たようなとんがり帽子かぶって、なんでかカボチャのオレンジのパンツはいてて、おかしいけど可愛い。
 レンと似たような1cmくらいの杖を持ってて、その杖の先にもちっこいカボチャがついてる。
「と、とり?」
「とりくんっ」
 同じ顔を見合わせて、こてんと首をかしげる様子が、シンクロしててちょっと笑える。
 何が「とりくん」なのか知んねーけど、ちびっこ魔法使いが2人して杖をぶんぶん振り回す様子は、やっぱ可愛くて癒される。

 それに対してイマイチ可愛げがねぇのは、もう1体出てきた歯磨きDOLLだ。
「Trick or treat、だろ」
 ムダに流暢な発音で、レンとレンレンの前に立ちはだかる、オレにそっくりのDOLL・タカ。これを作ったのはオレだから、オレの分身といえなくもねぇ存在だ。
 そのタカは吸血鬼の格好させられてて、ああハロウィンか、と納得する。
 ハロウィンっつったら、チビどもの仮装だよな。
「とりくん、おー」
「とりくん、とー」
「Trick or treat!」
 言えてねぇレンとレンレンに、腰に手を当てて指導するタカ。オレだって思ったらちょっと不憫な気もするけど、レンたちの可愛さの方が上なんだから仕方ねぇ。

「treat!」
「とりー、と?」
「とりー、くん?」
「違ぇーって言ってんだろ!」
 があーっ、と両手を上げてタカが叫ぶと、きゃあっと笑いながらレンとレンレンが逃げて行く。
 研究室の実験テーブルの上でいきなり始まった追いかけっこは、邪魔だけどひたすら可愛い。
 ぷっと吹き出しながらケータイを取り出し、写真を撮る。
「阿部君」
 って、横から声を掛けられたのは、その時だった。

「と、トリック、オア、トリート」
 たどたどしい発音に振り向くと、チビどもと同じ顔をしたデカい廉が、魔女の帽子被って立ってた。
 白衣の上から安っぽい黒のマント羽織って、手抜きな仮装もいいとこだけど、それなりに似合ってて可愛い。恥ずかしそうにしてんのも可愛い。
 レンも可愛いけど、DOLLと違うなって思うのは、じわーっと赤くなってるトコだ。
 お菓子かイタズラか、って要求しときながら、オレに「はいっ」ってデカいぺろぺろキャンディー差し出してて、まったく意味がワカンネー。
 もしかしたら、外界から遮断されて隠されて生きてた廉だから、まだハロウィンが何かさえ、よく分かってねーのかも知れねぇ。
 けど、くれるっつーなら貰うべきだし、遠慮なんかするつもりなかった。
「Trick or treat、だろ」
 DOLLのオレと同じセリフを口にしながら、差し出されたキャンディを受け取る。

「とりくん、おー、とりー、くん、とー!」
 きゃあきゃあ笑いながら、ててててっとDOLLが向こうを走ってく。3体で団子みてーになりながら、転んだり走ったりしてる様子は、チビだけにやっぱ可愛い。
 けど、オレにとってはもう、目の前で赤くなってるこの少年の方がよっぽど可愛く思えてた。
「似合ってんじゃん」
 とんがり帽子の上から、ぽんと頭を軽く撫で、さり気に耳元に顔を寄せる。
「今日は何も持って来てねーからさ、代わりに週末、どっか行こうぜ」
「どっか、って」
 ぼそぼそ声でのオレの誘いに、廉は同じくぼそぼそ声で訊き返したけど。

「デートとか」
 更に囁き、間近で顔を覗き込むと、廉は「でっ……!?」って言葉を詰まらせ、ますます顔を赤くした。

   (終)
※2018バレンタイン「バレンタインDOLL」に続く。

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