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Season企画小説
正しいゴムの使い方 (原作沿い高1・2017ゴムの日)
 朝練の後、ベンチで着替えてる途中、三橋が髪を掻き上げてんのに気が付いた。
 汗で湿って、普段よりちょっと濃くなってる猫毛は、ぺたんと額に貼り付いて、オレが見てもウザそうだ。
 別に、他人の髪型がどうだろうと関係ねーし興味もねーけど、投球にはどうかと思って、ちょっとだけ気になった。
 振りかぶってるとき髪が目に入って、コントロール不能になっても怖ぇし。前が見えにくくて転んでも怖ぇ。髪ばっか気にして、周りに不注意になられんのも怖ぇ。
 今はまだそんなに長くはねぇけど、髪なんて伸びんのあっという間だし、練習練習で忙しくしてる内に、切り時を過ぎることもあるだろう。しまったってなってからじゃ遅ぇ。
「おい、そろそろ髪切れよ」
 湿った髪をくしゃっとかき混ぜ、三橋に散髪に行くよう促す。
「そんな長くねぇじゃん」
「うぜーな、過保護か」
 田島や泉にぎゃいぎゃい言われたけど、関係ねぇ。オレは別に独占欲強い方じゃねーし、別に普通に寛容だっつの。

 三橋だって、オレの意見が正論だって分かってるみてーだ。
「土、曜日に、切る」
 じわっと赤面しながら、素直にこくっとうなずいた。

 その日はたまたま合同授業も何もなく、廊下やトイレですれ違うこともなかったから、次に三橋の姿を見たのは、午後練が始まる直前だった。
「ちわー」
「ち、わっ」
 挨拶と共に部室に入って来た三橋を見て、一瞬目を疑った。
「うっはーっ、何だソレーっ!」
 真っ先にそう言って、三橋の元に行ったのは真横で着替えてた水谷だ。その手で三橋の頭を撫でながら、けらけら笑い転げてる。
 笑われてる三橋も、悪い気はしてねーみてーで、「う、へ」って色気なく笑ってた。
 ムカッとしたのは、三橋の前髪に有り得ねぇモンがくっついてたからだろう。顔をしかめながら近寄ると、ソレの正体がよく見える。
「何だ、それ?」
 水谷と同じセリフだ、と思ったけど、それ以外に思いつかねぇ。三橋の前髪は赤いヘアゴムで結ばれて、目にかかんねぇようにくるっと捻じられ、後ろ向きに倒れてた。

「いーだろ、クラスの女子がやってくれたんだぜ」
 田島が得意そうに説明し、三橋もへらへら笑ってる。
「へぇ、キャップの邪魔にもなんなそうでいーじゃん」
 水谷が誉めるように、単純に結んだだけじゃなさそうで、ぺたんとなってて、キャップ被っても何も心配なさそうだ。
 変な飾りとかも何も付いてねーし、ケガする心配も何もねぇ。赤だから目立つけど、茶色のゴムでも使ってりゃいいし、髪を切るまでの間なら、モモカンだって黙認してくれそうだった。
 ただ問題は、クラスの女子がどうこうっていう、さっきの田島の証言だ。
 へらへら笑って、嬉しそうにしやがって。一体、どんな顔して結んで貰ったんだっつの。考えるまでもなく、目に見えるようでムカつく。
「三橋」
 手を引いて水谷らの前から三橋を連れ出し、ロッカーの前に連行する。
「可愛ーじゃん」
 真顔のまま耳元でぼそっと誉めると、三橋は嬉しそうに微笑んで――オレの目を見て、ひくっと頬を引きつらせた。

 恋人がイメチェンを誉めてんのに、何だ、その反応? 可愛くてムカつく。
 デカい目が泳ぎ、田島や泉にちらちらと向けられてて、助けを求めてるっぽいのにもムカつく。
 オレはそんな独占欲強い方じゃねーし、普通に寛容なつもりだけど、お仕置きにちゅうちょはしねぇ主義だ。
「今日、お前んち寄るから」
 キッパリと宣言し、ゴムで結ばれた前髪を、崩さねぇよう指先で弄る。
 どういう仕組みなのかは、2人きりになってからたっぷり見させて貰えばいい。
「いーよな?」
 低い声で訊くと、三橋はびくびく肩を揺らしながら、従順にこくりとうなずいた。

 練習後は、コンビニへの寄り道の誘いも断って、まっすぐ三橋んちに向かった。
 両親が自営業と専業主婦なオレんちと違って、三橋んちは夜間、ほぼ無人だ。群馬に単身赴任中な父親はともかく、大学で助教授として働く母親も、大抵毎日帰りが遅い。
 恋人同士の中を深めるには、絶好の環境で――。
 だからオレたちがそういう関係になんのも、事情を知ればすぐだった。
 玄関に入るなり唇を奪い、腕を引いて廊下を進む。しんとした脱衣所で服を脱がすと、三橋の髪には赤いヘアゴムが付いたままで、それを見ればやっぱムカつく。
 よく見りゃ、結んだ髪をゴムの下に1回くぐらせてあるだけみてーで、単純な仕組みに成程と思った。思ったけど、ソレとコレとは別だ。
「いつまで付けてんだ」
 ゴムごと前髪を引っ張ると、余計な飾りはあっさりと取れ、伸びた前髪がはらりと落ちる。結び癖がついたみてーで、ビミョーにみっともなくて笑える。
 取り上げた赤いゴムは、輪ゴムよりちょっと小さくて、細いのにキツくて丁度イイ。これでどうしてやろうか、考えただけでおかしくて笑える。
 ニヤッと見下ろすと、三橋がビクッと肩を揺らして、その様子もおかしかった。

「さあ、まずは洗わねーとな」
 オレも服を一緒に脱ぎ、浴室に連れ込んで頭の上からシャワーをかける。まずは不本意な女の手垢を洗い落とし、それから全身ピカピカに磨き上げた。
 体の奥までオレに洗われ、息を荒くする三橋をニヤリと見下ろす。
「あ……もう……」
 赤く上気した顔でオレを見上げる三橋の股間は、もうすでに欲しがってビンビンだ。
 右手につまんだままの赤いゴムは、そこにハメんのにぴったりだろうか。これ、サイズいじれんのかな?
 結び目をほどくのは面倒臭ぇけど、オレは妥協は妥協はしねぇ主義だし、楽しみのためにはちゅうちょしねぇ。
「お前、今日は出せると思うなよ」
 ぼそっと告げると三橋がびくっと肩を揺らしたけど、怯える顔も可愛いし、ますますオレを煽るだけだ。
 怯えつつ、どこか期待してるようにも見えて、昼間のムカつきがスゥッと薄らぐ。
 そうだよな、欲しいよな。

 けど、そう簡単に赦してやる気分にはなれなくて。お仕置きは、風呂上りからが本番だった。

   (終)

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