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Season企画小説
Lの襲来・1 (2015榛名誕・社会人・同居・NY)
※このお話は、Gの襲来Hの襲来Iの襲来Jの襲来Kの襲来 の続編になります。






 大音量のアメリカ国家、ポンポンと青空に打ち上がる花火、球場をぎっしりと埋め尽くす観客。
 メジャーリーグの試合は、何度来ても熱気がスゲェ。
 渡米してから何度か来てるけど、来るたびにスゲェと思う。
 日本と比べてしみじみ違いを感じんのは、観客席全体にホームカラーが広がってる事だ。
 選手たちと同じ、青いTシャツを着たファンたちが1塁側も3塁側もなく広がって、ホームチームを応援してる。
 オレも、それから右隣に座る恋人の三橋も、同じく青いTシャツ姿だ。背番号は69。ついでに言うとオレの左側に座ってる、河合と高瀬の2人も一緒。
 これは、オレの知り合いの榛名元希の背番号で――このTシャツ自体、その榛名から贈られたものだった。
 今日はその榛名の先発登板。しかも誕生日だっつーのがネットでも広まってるらしく、同じ69番のシャツを着てるヤツも多い。

 中学時代、リトルシニアの先輩だった榛名元希から、Tシャツつきでチケットが送られて来たのは、先週のことだ。
 ちょうど恋人の三橋の誕生日に近くて、プレゼントみたいだっつって本人は喜んでた。
 ベッドに連れ込んでお仕置きしてやったのは、当然だろう。オレ以外の男から、モノ貰って喜ぶんじゃねーっつの。
 それが例え誕プレじゃなかったとしても、ムカつくことには変わりなかった。

 そもそも、試合を見に来いって連絡があったのは、1ヶ月くらい前だ。
 メジャーリーグのレギュラーシーズンが始まってからだったハズだから、多分4月半ばくらいだろう。
 日本人投手として、NYのメジャー球団に所属してる榛名は、本国でもこっちでも人気者だ。
 実力っつーより、カメラの前でのパフォーマンスが受けてるっつーのもあると思う。カメラに向かって「よく見とけ」とか、見てるこっちが恥ずかしい。
「アメコミのヒーローみたい、だねっ」
 同棲する恋人の三橋がそう言ってたけど、あの傍若無人な性格は、ヒーローよりも悪役の方がふさわしい。
 っつーか、TVで野球中継を見るたびに、「榛名さん、格好いい」って三橋が誉めるもんだから、余計に気に食わなく思ってた。

 その榛名からの突然の電話。
 何かと思ったら、『5月24日、友達誘って球場に来い』って。
「はあ? 何言ってんスか?」
 電話口で問いただすと、どうも雑誌の企画か何かで、誕生日に合わせて取材みてーのがあるらしい。
 「本日誕生日を迎える榛名投手のために、応援に駆けつけてくれた日本人の友人たち」みてーな写真が、どうしても欲しいんだとか。
『いい席のチケット贈るからよー、悪い話じゃねーだろ?』
 って。それが人にものを頼む態度かっつの。
「まあ、アンタ友達いなそうですもんね」
 イヤミったらしく鼻で笑ってやったら、『うるせーよ』って言われた。自覚はあるらしい。

『とにかくさー、あんま大人数でもやらせっぽいから、お前入れて4人くらい。お前の方がこっちにいんの長ぇんだし、誰かいるだろ?』
 榛名は一方的にそう言って、『頼むな』つって電話を切っちまった。
 まあ、メジャーリーガーはかなりハードスケジュールで動くっつーし、色々忙しいんだろう。
 投手は野手と違って毎日試合に出る訳じゃねーから、まだマシかも知んねーけど、それでも多忙なのには変わりねぇ。
 そんな中、他人に任さず本人が電話してきたんだから、榛名なりに誠意はあるんだろう。

「榛名の試合、見に行くか?」
 三橋に訊くと、「行く!」つって、スゲー喜ばれた。榛名の試合っつーのも嬉しいけど、オレと一緒だっつーのがもっと嬉しいって。
「阿部君とデート、だねっ」
 そんな風に喜ばれりゃ、悪い気はしねぇ。
「実は榛名に頼まれて……」
 訳を話すと、イヤな顔するどころか「阿部君、スゴイねっ」って更に喜ばれた。
 日頃から「スゴイ、スゴイ」と誉めてくれんのは嬉しいけど、時々意味が分かんねぇ。
 ただそんなとこも魅力で、好きだった。

 アパートメントの隣に住む河合らに、声を掛けようつったのも三橋だ。
「ふ、2人とも、野球やってたんだ、って」
 って。知ってるっつの、その話は何度も聞いた。
 お隣同士で仲良いのはいいけど、他の男に懐かれんのは、正直、あんま面白くねぇ。
 河合も高瀬も、互いのことしか目に入ってなさそうだからいいけど、何しろ三橋は可愛くて素直だ。油断ならねぇ。
 前に「友達だ」つって来た泉ってヤツも……榛名も、油断ならねぇと思う。
 三橋は「阿部君の方がモテる」とか言うけど、自分の魅力をちゃんと分かってねーんだろう。
 オレは生粋のゲイだけど、三橋の魅力はヤベェと思う。
 ほわほわして素直で、色白の細身で、パッと見た感じ頼りねぇ。けど、ちゃんとしっかり仕事してるし、熱心だし、色んなこと考えてる。何と言っても、メシが美味ぇ。
 あんまゲイとかバイとか、男もイケるっつーヤツを、恋人の周りに近付けたくなかった。


 始球式は、ノースリーブにショートパンツっつー格好の金髪美女。振りかぶる格好だけは立派だけど、キャッチャーミットには届かずに、てんてんと斜めに転がった。
 意外だったのは、三橋とは反対側の隣に座る河合が、「おお、いい脚だな」って誉めたことだ。
 普通の男がそう言ったら、どんなスケベ親父だって感じだけど、この河合はちっともスケベさが滲んで来ねぇ。
 人徳か? それとも、金髪美女には興味ねぇからか?
「でも、準太には負けるけどな」
 ぼそっと続いた呟きに、準太って呼ばれた男が照れまくる。
「もー、和さんたらぁ」
 って。日本語だからいいけど、昼間っからのろけんのは勘弁して欲しい。

 一方のオレの恋人はっつーと、金髪美女なんか目もくれず、アメリカンサイズのハンバーガーにかぶりついている。
 色気ねーなと思ったけど、コイツのこういうとこがスゲー好きだ。
「おら、ソース付いてんぞ」
 くくっと笑いながら頬をぬぐってやってると、そのぬぐった指を口に入れたとこで、横から河合にぼそっと言われた。
「見せつけんなよ」
 って。こっちのセリフだっつの。

 けどまあ確かに、隠さなくていいのは楽だ。
 三橋がこいつらに懐くのも、ちょっとは分かるような気がした。

(続く)

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