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Season企画小説
キミはオレの黒い猫 (2012叶誕・大学生)
※あくまでアベミハですが、前半、カノミハに見えるように書いてあります。苦手な方はご注意下さい。






 同居人の廉は朝が弱い。目覚まし時計を掛けていても、いつも無意識に止めてしまう。
 だから、こいつを起こすのは毎朝のオレの仕事だ。
「廉、起きろ、朝だぞ」
 ベッドに腰掛けて頬をつんつん突いてやると、「ふにゅー」とか可愛い声を上げて、でも起きねーで寝返りを打つ。
「廉、こら、起きろっつの」
 もっかい呼んでも返事がない。

 ……ったく、世話が焼ける。
「レーンー?」
 オレは低い声で言いながら、廉の耳元をベロッと舐めた。
 ほら、起きねーと噛むぞ?
 半ば本気でそう思いながら、べろべろ数回舐め続けると、廉の体がビクンと跳ねた。
「ふわっ、修ちゃん、くすぐったい、よっ」
 締まりのねぇ笑みを浮かべ、ようやく起き上がった廉の頭は、毎朝のことながら寝癖だらけだ。
「起きねーからだろ。世話焼かせんじゃねーよ」
 素っ気なくそう言って、スタンとベッドから飛び降りる。
「もう腹ペコペコだっつの。メシ!」
 言い捨ててキッチンに向かうと、廉は情けねー声で「待ってよー」と言いながら、オレの後をついて来た。

 オレはメシなんて作れねーから、いつも悪ぃけど廉に任せっ切りだ。
 けど、そういうのも同居の条件な訳だし、廉の方から「どうしても」つってオレをここに連れ込んだんだから、別に負い目とかは感じてねぇ。
 ……まあ、感謝はしてるけど。
「修ちゃーん、缶詰でいいー?」
 廉の声に「あー」と答えると、廉はいそいそと缶詰を開け、オレの皿に中身を丸ごとブリンと移した。
 皿の上にでーんと乗っかる、飾りのねぇ円筒形に苦笑する。

 もうちょっとさー、何かねー訳? いや、別にこのままでも美味いけどさー。
 例えば、シラスとかカツオ節とかチクワとかカニカマとか、ちょっとてっぺんに乗せるくらいの可愛げがあってもよくねーか?
 いや、食べるけどさ。
 心の中でそんな事を言いながら食べてると、香ばしい匂いと共に、オーブントースターがチン、と言った。

 廉は、朝はトースト派だ。バターじゃなくて、安っぽいファットスプレッドを使ってる。
「うまそおっ」
 一声言ってから、トーストを齧る廉。こいつのこの習慣はマジ真似できねぇ。
 じっと見てたら、「食べる?」って訊かれて、首を振った。バターなら食べねぇこともねーけど、オレはトースト自体好きじゃねーし。
「オレはいーから、さっさと食えよ。遅刻すんぞ」
 そう言って、オレは廉から目を逸らし、黙々と飾り気のねぇ缶詰を食べた。

 メシ食った後、廉は慌ただしく支度をする。
 歯ぁ磨いて顔洗って服着替えて、それから寝癖と格闘したりして。
「修ちゃん、オレ、今日早く帰るから。お祝いしよう、ねっ」
 パタパタと部屋を横断しながら支度を済ませた廉は、そう言って大学に向かった。レンを見送り、カチャンと鍵のかかる音を聞いて、やれやれとため息をつく。
 お祝いって……何かあったかな?
 よく分からねー。廉は、お花見だとか七夕だとかつって、何かっつーとお祝いしたがるヤツだったし。


 予告通り、廉は暗くならねー内に帰ってきた。
「おー、ホント早かったな」
 玄関まで出迎えたオレに、廉はふにゃっとした笑みを向ける。
「ケーキある、よー」
 機嫌よくそう言って、白い紙箱を得意げに見せられると、まあ悪い気はしねぇ。ケーキを食うかどうかはともかくとして。
 そういや、お祝いがどうとか言ってたか?

 廉の後ろについて奥へ戻ろうとしたオレの背後で、もっかい玄関の戸が開いた。
 はあ!? と振り向いて、うわっと顔をしかめる。
「よー」
 ニヤッと人の悪ぃ笑みを浮かべ、オレに声を掛けて来たのは、招かれざる闖入者・阿部隆也。
 おーい、こいつも一緒だって聞いてねーけど、廉。
 心の中で文句を言いながら、阿部をじっとりと睨み上げる。

「何しに来た?」
 オレの問いに、阿部は小馬鹿にしたようにため息をついた。
「あーあ、ホント、愛想ねーなお前」
 うるせーな、大きなお世話だっつの。なんでオレがお前ごときに愛想振りまかなきゃならねーんだ。意味ワカンネー。
 無言で阿部を睨んでると、廉がキッチンからオレ達を呼んだ。
「阿部君、修ちゃんも。早く、こっち来て」
「おー」
 阿部は、オレに向けんのとは正反対の優しい顔で、オレを差し置いて廉を追った。

 オレは阿部が嫌いだ。
 なんでって、阿部が来ると廉を寝室に引き入れて、オレを閉め出してしまうからだ。
 廉がどんなに啼こうが喚こうが、あいつが赦すことは絶対にない。中で何をしてんのか知らねーが、ろくでもねー事だけは確かだ。
 その後、廉はぐったりになり、ベッドは阿部臭くなり、オレの晩メシは遅くなる。
 マジ、ホント、来ないで欲しい。

 ほら、今日だって、せっかく廉が「お祝いだ」つってんのに。
「修ちゃん、今日はご馳走です、よー」
 そう言って、スーパーのレジ袋をごそごそやってる廉に近寄り、後ろから抱き付いている。
「なあ、三橋」
 甘い声で、廉の耳に口を寄せる阿部。マジウゼー。
 廉は、オレに舐められた時とは全く違う、艶のある声で、「ダメ、待って」とか言ってるし。
 はー、もう、聞いちゃいらんねー。

「おい!」
 精一杯の大声で怒鳴ってやると、トロンとしかかってた廉が、ハッとこっちを向いた。
「あ、ご、ごめん、ね」
 赤い顔で謝りながら、メシの支度を再開する。
 阿部が、ちっとか舌打ちしてるけど、知った事じゃねぇ。つーか舌打ちしてーのはこっちだっつの。

 廉はオレの皿の上に、買って来たばかりらしい物を並べた。
 滅多に食えねぇ高級缶詰、カニカマ、マグロの刺身……最後にケーキを取り出すのを見て、阿部が呆れた声を出した。
「今日誕生日なのは叶であって、そいつじゃねーだろ」
 廉はぐっと言葉に詰まり、ケーキを見て、阿部を見て、そしてオレの顔を見た。

 やがて、ふうと息を吐いて、廉が言った。
「いい、んだ。修ちゃんは修ちゃんだ、から」
 阿部はしばらく黙ってたが、諦めたようにため息をついて、三橋の頭をふわりと撫でた。

 2人は、時々こうしてオレに分からねぇ会話をする。
 叶ってのが誰なのかオレは知らねぇし、別に興味もねぇ。今日が誰の誕生日だとか、そんなことも別に、関係ねーし。
 元々廉は、子供の日だとか母の日だとか父の日だとか言って、何かっつーとケーキを買って来るヤツだ。
 オレは生クリームなら食べなくもねーけど、ケーキ自体好きでもねーから、別にどうだっていい。廉の好きにすればいい。
 それにいちいち文句を言う阿部は、デカいなりして器が小せーに違いねぇ。
 全く……こんなヤツの、一体どこがいーんだよ、廉?


 甘い生クリームがちょっとだけ添えられたメシの皿が、コトンとオレの前に置かれた。
「うまそお」
 三橋の真似して、初めてそれを言って見る。
 ガツガツ食べ始めたオレの頭上で、阿部がぶはっと吹き出した。
「な、こいつ今、『うまそう』って言わなかったか?」
「い、言った!」
 三橋の声も弾んでる。
 ……別に、喜ばそうと思って言った訳じゃねーけど、そうウケられるとちょっと恥ぃ。やっぱ、明日からは絶対言わねーようにしようと思う。

 キッチンの床でメシを食うオレを放置して、廉は阿部に引き摺られるように、寝室へと姿を消した。
 間もなく聞こえて来た廉の啼き声に、あーあと思いつつ、ぺろりと口の周りを舐める。
 中で何やってんのか、別に気にならねーし興味もねーけど。
 ベッドが阿部臭くなんのはホント、勘弁して欲しいものだ。

  (終)

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あきゅろす。
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