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Season企画小説
おしゃテコのトラウマ (2012沖誕)
 7月20日、金曜日。
 メシ食おうぜ、と招待されて阿部の住むマンションに行った。
 そしたら、出迎えたのが三橋でビックリした。阿部は買い物に行ってるらしい。

「沖君。い、いらっしゃい。どうぞ、入って」
 三橋はランニングシャツに、黒のおしゃれステテコっていうラフな格好で、自分ちみたいにくつろいでる。
 勝手に冷蔵庫を開けて、勝手にコップを取り出して、オレにアイスコーヒーを入れてくれたから、またビックリした。
 一緒に住んでるんだって聞いて、さらにビックリした。
 だって、あの阿部と三橋が、だよ?

 去年まで、同じ高校の野球部のチームメイトだったから、オレも阿部と三橋のコトはよく知ってる。
 2人はチームの正捕手とエースで、すごく息の合ったバッテリーだった。でも……グラウンドを離れたら、かみ合わない事も多かった。
 何しろ三橋はビビりだし、阿部はとかく大声を出すし。
 そりゃ、1年の秋頃には、いい感じに仲良くなりつつあったけど。
 でもさ、それは「前に比べたら」であって。例えば、阿部が花井と話すように、三橋が田島と話すようには、ツーカーって感じじゃなかったと思う。

 それが、なんで同居なんて事に?
「……大丈夫なの?」
 思わず訊くと、三橋はきょとんと首をかしげて、ハテナマークを出して見せた。
「えっと、つまり……阿部とやっていけてるの?」
 これって、ごく自然な疑問だったと思うんだけど。でも三橋は迷わずうなずいて、にこっと笑った。
「阿部君、優しい、よっ!」

 阿部が、優しい!? ビックリした。
 いや、勿論、イジワルだとか言うつもりはないんだよ? 誠実だし、信頼できるし、面倒見のいいヤツだってのは分かってる。
 でも、「優しい」っていう言葉は、阿部に似合わないんじゃない、かなー?
「へ、へ〜……」
 オレは同意も反論もできなくて、曖昧に笑って誤魔化した。


 ふと会話が途切れちゃったので、黙ってるのも気まずかったし、別にどうでもいい話なんだけど、さっき気になったことを訊いてみた。
「それ、おしゃれステテコってヤツだよね。どう? 涼しいの?」
 おしゃれステテコ、略して「おしゃテコ」は今、はやってて。ステテコなんだけど、従来の腹巻が似合うような白いのじゃなくて、色んな色柄があるらしい。
 三橋がはいてるのも、黒地にグレーと焦げ茶色のストライプだ。
 オレが訊くと、三橋は「うお」と下を見て、それからオレを見て「うん!」と元気よく答えた。

「阿部君がね、買ってくれたんだ」
「へ〜」
 まあ確かに、そういう黒っぽいのって阿部が選びそうな感じだ。
 単に好みがっていうより、汚れが目立たなそうって言うか……そういう実用本位で選んでそうっていう意味だけど。
「お、お揃いなんだ、よっ」
 嬉しそうに言われて、それにも「へ〜」としか返事できないけど。でもなんか三橋、嬉しそうだった。

 そう言えば三橋って、転校して以来、小・中と友達いなかったんだよね。
 じゃあ、そうか、友達と何かをお揃いで持つって経験があまりないから……こんなおしゃテコ1枚でも、阿部とお揃いっていうのは嬉しいんだろうなぁ。
 そう考えると、思わずほろっとしちゃって。つい言ったんだ。
「三橋、良かったねぇ」
 って。

 三橋はね、「うんっ」って。それはそれは嬉しそうに、幸せそうにうなずいた。
 でも、その後の会話が、なんか変なんだ。
「阿部君はステテコの下にパンツはかない」
 とか。
「オレがはいてると、怒る」
 とか。
「この間、『邪道だ』って脱がされた」
 とか――。おかしくない?

 三橋のおしゃテコを脱がす阿部……想像して、ちょっとドキッとしちゃったのって、オレだけ?
 普通さ、そんなこと友達にしないよね?
「阿部と、な……仲、いいんだね」
 オレが愛想笑いしながらそう言うと、三橋はまた幸せそうに「うん」って笑って。それから、ポッと真っ赤になった。
 えーと、ごめん、真っ赤になる意味が分からないんだけど……。


 その後すぐに、阿部が帰って来たんだけどさ。
「誕生日おめでとうな」
 って。小さなケーキを3つ買って来てくれて。
 で、暑いからって部屋に引っ込んで、阿部もね、おしゃテコに着替えて来たんだけど。その阿部を見て、三橋が言ったんだよ。
「あ、そ、それ、オレの、だ」
 って。
 そしたら阿部は、「いーじゃねーか、今更」って。
 今更ってなにかな? 意味が分からないんだけど。

「よくない、よっ。阿部君、パンツはいてくれ」
「ヤダよ、ここは通気性が大事なんだぞ」
「パンツはいてたって、通気性はいい、よ」
「蒸れてココがビョーキになったら、困んのはお前だぞ」
「びょ、ビョーキならない、よっ」……。

 って。……そんな会話をさー、ねぇ、友達同士で普通するのかな?
 意味が……えーと。うん、オレ、すっごく居たたまれないって言うか、帰りたくて仕方なかった。でも我慢したんだよ?
 で、結局晩ご飯ご馳走になって、「大したもんじゃねーけど」ってプレゼント貰って。フラフラしながら家まで帰ってさ……。

 包装を開けると、そのプレゼントが――阿部と三橋、それぞれがはいてたのとお揃いの、おしゃテコだったんだけど。

 これってさ、どう思う?
 三橋の赤い顔とか、阿部の「今更」の言葉とか、思い出さずにはいられないんだけど、どう思う?
 で、この下にさ……パンツってはくべきなの? どう思う?

  (終)

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