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小説 1−10
ロケアナ・1 (アナアナ続編・プロ阿部×アナウンサー三橋)
※この話は、アナアナアナ穴 の続編になります。







「ただ今、静岡県は伊豆半島にあります、アニマルペニンシュラに来ております。本日はプロ野球、埼玉レオネスの阿部選手と共にですね、晩秋の伊豆半島、1泊2日の旅をお送りしたいと思います……」

 カメラの前で、濃紺のスーツを着た三橋が真面目な顔でガイドを始めた。トラの餌やりやれって言われて、直前まで「やだ、やだ」ってごねてたのがウソみてーな顔だ。
 ドモってもキョドってもねーし、カンペも見てねーし、こういうトコ見ると、さすがアナウンサーだなって感心した。
「阿部さん、今日はよろしくお願いします」
 プロの顔で挨拶され、「おー」とうなずく。
 何が「今日はよろしく」だ、昨夜も一緒だっただろ。心の中だけでツッコミしながら、動物園の中に移動する。
「はい、カット。じゃあ、サファリの方に移動しようか」
 ディレクターの言葉と共に、「う、え……」と顔を歪める三橋は、どうやら生の動物が苦手みてーだ。見る分には好きだけど、触んのは苦手らしい。
 そういや、前のお宅訪問番組ん時も、巨乳女優んちで犬に怯えまくってたっけ。
 あれは可愛かったな、と思い出し、ふふっと笑える。
 犬に怯えまくり、動揺しまくる三橋もいいけど、オレの下でカメラ向けられ、あんあん啼きまくる三橋も可愛い。
 ただその顔を、オレ以外に見せてやるつもりはなかった。

 駆け出しアナウンサーの三橋を最初に知ったのは、ある試合前の、インタビュー中継の時だった。
「阿部せっ、んしゅ。ちっ、チームの仕上がりは、いかがでしゅ、か……っ」
 噛みまくり、赤面しまくりのインタビュー。いつもは試合前でピリピリすんのに、そいつのお陰ですげー和んだ。
 日頃から、「チャラチャラした女子アナなんか差し向けんな」っつっといてよかった。三橋を抜擢してくれたスタッフには、礼を言いてぇくらいだった。
 しかも、とどめが中継の終わり。
『三橋アナ、大興奮ですね。阿部選手の大ファンなんですか?』
 スタジオのキャスターからのツッコミに、「はい、大好きですっ」って。そんな告白されたら、意識しねぇ方がおかしいだろう。
 その後、一転して真面目にニュース読んでる姿を偶然見て――絶対に手に入れてやろうと思った。

 三橋の所属するTV西浦から出演オファーを貰うたび、三橋を指名しようと思い始めたのは、それからだ。
 TV局側からすると、ガキみてーな女子アイドルや、アイドルグループ崩れの女優なんかと出演させてぇ時もあるらしいけど、そういうのは元々、全部却下してた。
「阿部さんは、随分三橋のことをお気に入りのようですねぇ」
 制作側からちくっと嫌味言われたりもしたけど、オレの本業は野球だし。別にTVなんか、出なくても構わねぇ。
 きちんと試合で結果を出してりゃ、人気も地位もついてくる。三橋に関しての要求も、当たり前の顔で通させて貰った。
 実は前のお宅訪問の件も、それから今回の中継も、その当たり前の要求の一環だ。

 水鳥の池の脇を抜けながら、カメラと照明とを引きつれてぞろぞろと歩く。
「はい、三橋君。笑顔でね」
 ディレクターの視線の先には両脇に動物のいる遊歩道があって、すでに三橋は及び腰だ。
「うええええっ、ホントにトラ、ですか? き、キリン、とかじゃ……」
「キリンに餌やるのは普通でしょー」
 食い下がる三橋を、一蹴するスタッフ。行きの車ん中でもさんざんやってたやり取りだ。
「諦めろ」
 頭をぽんと撫でてやると、じとっと拗ねた目で見られて、おっ、と思った。可愛いけど、生意気だからお仕置き決定だ。
 平日の午前中だからか、園内は客もまばらで撮影しやすい。
 三橋の横に立ちながら、カメラを意識しつつ、周りにぐるっと目を向ける。

「はい、本番行きます。5秒前、4、3、2……」
 ディレクターのカウントダウンが始まると、キョドってた三橋がカメラの前ですっと真っ直ぐに背筋を伸ばした。
 その辺は、さすがにプロだなって誇らしくもあるけど、本番以外でもずーっとカメラが回されてんのに気付かねぇ辺り、まだまだだなぁと思えて可愛い。
 多分、「餌やりヤダ」とか「トラ怖い」とかごねてたり、及び腰になってたりするとこも、面白おかしく編集されて使われるんだろう。
 けど、その放送分の録画見て、「見ないでぇ」つってあわあわすんのも可愛いんだから、オレにとっても異論なかった。

「ここアニマルペニンシュラは、創業40周年を迎えます、歴史ある動物園です。ウォーキングサファリ形式といいまして、サファリバスを使わず、より身近に、放し飼いになってる動物たちの様子を、見ることができるようです」
 マイク片手に、覚えた原稿を淀みなく読み上げる三橋。
「あ、あちらにシマウマが見えますね。では阿部さん……さっそく行ってみましょうか」
 一瞬オレを見た三橋が、助けを求めるように眉を下げた。
 「行きましょうか」つってるけど、全力で「行きたくない」って言ってるみてーだ。カメラ回ってるっつーのに、すげー可愛い。
 意地悪したくなんのも、からかいたくなんのも、全部三橋が可愛いからだ。
 スタッフにだって、結局は可愛がられてるに違いねぇ。
「三橋アナは、動物苦手なんだっけ?」
 ニヤッと笑いながらアドリブで話を向けると、三橋が「ふえっ!?」って跳ねるように振り向く。
「前にさ、犬に追いかけられて泣いてたよな」

 ニヤッと笑いながら話を向けると、計算通り、三橋がドモッた。
「ななななな、泣いてない、です」
 カメラの向こうで、オレと同じく破顔するスタッフ。
 放送分の映像も、未放送部分の映像も、スムーズに手に入れるためには、ある程度の協力が必要だ。
 三橋には悪いけど、恥らって真っ赤になって、身悶えする顔はホント色っぽくて可愛いから、オレがスタッフに味方すんのも、当然といえば当然だった。

(続く)

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