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夢小説の館
後編・ホワイトデー


どうして、正直に言わなかったのだろう。



あの日 バレンタインの日

今しかない ―――そう思った。

教室で一人眠る幸村の横に、そっと添えた赤い袋のチョコレート。


あのね、初めて作ったんだよ。
あなたの好きな、甘めのにしてみたんだよ。


幸村は私のこと、友達としか思ってないかもしれない。
隣近所の付き合いで、小さい頃からずっと一緒だったものね。

だけど

私はもう、あなたに恋してる。

あなたの優しいところも、まっすぐなところも、純粋なところも

幸村

好きだよ。

ずっとずっと前から好きだよ。


そう囁いてから、私は彼を起こした。




3月14日

教室では、伊達君や前田君が女の子たちへのお返しのキャンディーを配って回っていた。

「あ!名前ちゃんー!・・・からは貰ってなかったね。残念。」
「アンタ、本命にしか渡さなさそうだからな・・・。なあ、真田。」

呼ばれて振り返った幸村と一瞬目が合ったような気がしたが、直ぐに反らされてしまった。

・・・・・・・・・。

「政宗殿、慶次殿。あとで話があるのでお付き合い願えるでござろうか。」

幸村は私の横を通り過ぎていった。


あの日・・・

バレンタインの翌日から、幸村の様子が変だ。
妙に、私によそよそしい。

もしかしてあのチョコが私からだとばれてしまったのだろうか。
でも鈍感な幸村のことだ。まず気づかれることはないだろう。

だったら・・・

・・・好きって呟いたのを、本当は起きていて聞かれていたとか・・・・・・?

それで、
・・・幸村は、困っている・・・・・・・・・。

不安な気持ちが脳内を駆け巡った。


ここのところ、一緒に帰る日も少なくなった。
ああ・・・気まずくて避けられてる・・・。

やっぱりあの時聞かれていたんだと思えば、全てに納得がいく。

こんな想いするくらいなら、チョコ渡そうなんて考えなければよかった。

一日を終え、今日も独りぼっちか・・・・・・と西日が差し込む誰もいなくなった教室を見渡して、帰ろうとした。


その時。


「名前・・・!」

彼が、息を切らして駆け込んできた。

「幸村・・・・・・!もう帰ったのかと・・・。」

「名前と、一緒に帰りたい。」

「だって幸村最近・・・っ」

「一緒に帰れなくてすまなかった。色々、探し物をしておって・・・」

探し物・・・?

幸村は、こほんと咳払いをして告げた。

「名前、ありがとう。」

え・・・・・・?

「丁度一ヶ月前の、赤い小さな袋に入ったちょこれーと。」

あ・・・

「名前が、作ってくれたのであろう?」


何で・・・?

「何となく、わかるのだ。名前が作ったものだから、俺にはわかるのだ。俺の好きな、甘い甘いちょこれーと!」

彼に自信満々に語られて、なんだか照れくさくなった。
わかるんだ。それだけで。

幸村には、わかってしまうんだ。

「ばれんたいんのお返しは、今日渡さねばならぬのであろう?この一ヶ月間何か良い物をとずっと捜しておったのだが、何を渡せば良いのか・・・」

いいよ、お返しなんて。

そんなにあれこれ悩んでくれていたなんて。

それだけで、とても嬉しいよ・・・。


「だが、ひとつだけ、見つけたのだ。」

うん・・・?

幸村は、真っ直ぐ私に向き直った。

「―――名前。」


一瞬のことであった。


・・・・・・んっ


私の唇に
ふいに 彼の唇が重ねられた。



・・・幸・・・村・・・・・・・・・!?

「政宗殿と慶次殿に、名前へのお返しはこうすると良い、と教えられ・・・。」

・・・え
・・・え あの だって、今の・・・・・・っ


「・・・う、うあ・・・?俺は、何か間違ってしまったのであろうか・・・っ。何故だ、顔が、熱く・・・・・・っ。」

幸村は、自分が今した事の意味をわかっているのかな・・・?

私は彼の手をとり自分の頬に当てた。


・・・間違ってないよ。ほら、私もおんなじだもの。

「名前も、熱くなっておる。」

うん。



あのね、

「幸村が好き。」
「名前が好きだ。」


同時だった。

「まことに、名前が俺を・・・・・・?」

私は頷いて微笑ってみせた。


幸村が好き。大好き。
ずっと、前から大好きだよ。


「俺だって、名前のことを・・・!」

・・・それって、どうゆう“好き”・・・?

あんなに気をつけていたのに、思わず困らせるようなことを聞いてしまった。

だって、ちゃんと聞きたい。

「ばれんたいんに、他の誰よりも名前のちょこれーとが欲しかった。」

・・・・・・。

「好きな人はいるかと聞かれて、真っ先に名前の顔が浮かんだ。」


ほん、とう・・・?

「名前と、・・・そのっ、もう一度・・・、」


・・・もう一度・・・?


「先程の事を、したいと思った。」


さ・・・先程の・・・って、

「う・・・と、く・・・っ口を付ける行い・・・を・・・・・・」

・・・・・・・・・!


どうしよう、 今 これ以上無い位、鼓動が・・・・・・


「名前・・・・・・」


・・・・・・・・・・・・・・・うん


幸村の顔が迫るのと共に、目を閉じた。

私を包んでくれる、ぎこちなくて優しいあなたの腕。


―――大好き



遠くに聞こえる、
廊下に響く足音

誰か来る。

ねえ
誰か来るよ、幸村。

次第に迫る話し声。

この声は・・・伊達君たちだ。


「名前、こちらへ―――――」

扉が開く。

「あー?」









「――おい、真田いねえぞ?てっきり教室に戻ったんだとばっかり・・・。」
「もう帰っちまったかぁ。名前ちゃんと上手くいったかなあ・・・。」

声はすぐに遠ざかっていった。




誰もいなくなった放課後の教室。

教卓の下に隠れ



二人は甘い 夢の中





<終>

次頁・あとがき



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