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夢小説の館
前編・バレンタインデー


“―――幸村”

好きだよ。

ずっとずっと前から好きだよ。


・・・素直に伝えられたら良かったのに。

ああ、幼馴染なんて残酷だ。



2月14日

私は席で日誌をつけながら、クラスの女子達の楽しそうな声を遠くからぼんやり聞いていた。

「はい、幸村君。」
「幸村君、私のも貰って?」

「おおっ!まっこと美味そうでござる!!本当に、某が貰っても良いのでござろうか。」
「もっちろん♪だって今日はバレンタインだよ?」
「ば・・・れんたいん・・・。」
「女の子がね、好きな男性にチョコをあげる日!」
「好・・・・・・っ。か、斯様に破廉恥な行事が存在致すとは・・・・・・。」
「やあだ幸村君真っ赤だー。ひょっとして、誰かチョコ欲しい人でもいるの?」
「えー幸村君好きな人いるのー?」

・・・!!!!

私には関係無い、
ただ聞き流していただけの会話に、ペンを持つ手が止まった。

「そ、そ、その様な者某にはおらぬ!」
「じゃあ私、彼女立候補しちゃおっかなー。」
「某には必要無い・・・っ。もう、この話はやめてくださらぬか・・・っ。」
幸村は慌てて教室の外へと飛び出していった。

そうだよね。
幸村は、昔からそうゆう奴だったもの。

だから、決して言わずにきた。
彼を困らせてしまうだけだってわかっているから。
永く一緒にいた、時間の所為で。

だけど今年は・・・・・・・・・


鞄を開けて、片手で所在を確かめた。
少し不恰好で、初めて作った彼への“キモチ”。


今年こそは―――――
すこしだけ、
すこしだけ、私に気づいて・・・・・・



放課後
私は日直の仕事を終え、職員室に日誌を届けにいった。

渡さなきゃ

渡すまで帰れない

私はすぐに教室へ鞄を取りに戻った。

すると・・・

教室の扉を開けると、西日で紅く染まる空間の中
彼がそこに居た。

何故か、私の机に臥せって眠って・・・。


「幸村・・・?」

彼の広い肩を恐る恐る揺すってみる。

数年前までは私より背が低かったくせに、いつの間にか彼を見上げている自分がいた。
その頃からだったのかもしれない。

彼を、幸村を意識するようになったのは・・・・・・





 幸村―――“好き”。







「・・・幸村!幸村ってば。」

「むう・・・。名前・・・・・・?」

「どうして、私の机で寝ちゃってるの?」

「名前を待っていたからだ。」

「・・・へえ・・・・・・。貰ったチョコ食べながら?」

幸村の口の周りには、茶色い跡が残っていた。

「腹が減っていただけだ・・・っ。」

幸村は慌てて残りのチョコを鞄に詰めていた。

「良かったね、人気者で。」

彼は目を伏せた。

「嬉しくなど無い・・・・・・。肝心なものだけ手に入らぬのなら、他に何をどれだけ貰っても、俺は嬉しくなど無い・・・・・・。」

その表情が、どこか寂しそうに見えて。

「幸村・・・・・・?」

「す、すまぬ・・・。名前、帰ろう。」

「うん。」

彼が立ち上がったとたん、小さな赤い袋が床に落ちた。

「この包みは・・・・・・?」

「他のクラスのコとかが、幸村の席だと思って置いていったんじゃないかな。」

「そうか、・・・なんだ、そうか・・・。」



いいんだ、今はこのままでも。
ずっと変わらない。幸村の隣はあったかい。でも複雑な、幼馴染の特権。

幸村の鞄の中には、不恰好な私のチョコレート。




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