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航海士の親切


「ユエ、ちょっと来て」


食事が終わり、ナミさんに呼ばれた。
ルフィさんともっと話していたかったが、何だかナミさんには逆らえない雰囲気がある。
ルフィさんに軽く手を振って、俺はナミさんの元へ駆け寄った。


「何ですか?」
「お風呂よ、入るでしょ?」
「へっ?」


聞き返すと、ナミさんにぱしっと右手を掴まれた。
指先の細い華奢な手なのに、なかなかに握力が強い。


「入り方教えてあげるから来なさい」


そのままぐいぐいと引っ張られる。
風呂…入り方…?
ナミさんの言葉を反芻する。
俺は全身から血の気が引くのを感じた。


「だだっ大丈夫です!俺、一人で平気ですからっ!!」
「何言ってんの、自分で頭洗えないでしょ?」
「あらっ、洗えます!」


腕を振りほどきたいけれど、女性に手荒なことはできない。
俺が抵抗していると、チョッパー君が助けに入ってくれた。


「ユエは風呂に入っちゃダメだぞ!また出血するかもしれないんだからな」
「え?そうなの?」
「つーか既に頭の血管切れてそうだぞ?顔真っ赤じゃねぇか、放してやれよ」


ウソップさんもナミさんを止めてくれた。
手を解放され、俺はホッと息をついた。

危なかった…ナミさんと一緒にお風呂に入るなんて、いろいろと耐えられそうにない。
いろんなところから血を噴いて死にそうだ。

熱くなった顔を両手でおおうと、ナミさんがため息をついた。


「そんなに嫌がることないじゃない…」
「いや、あのっ…すみません…恥ずかしくて」


ナミさんのことを嫌っているとか言う問題ではないのだ。
最初から俺は男だと言っているのに、全く理解してもらえないのが辛い。


「ユエ、風呂に入りたいかもしれないけど、傷が塞がるまでは我慢してくれよ?」


チョッパー君に言われ、俺は頷いた。
むしろそっちの方が助かる。
風呂の使い方は、後日別の誰かに教えてもらおう。

一難去ったと思った時。


「じゃあ今日は体を拭いてあげるわ。汗かいたでしょ?」


とナミさんに笑顔で言われた。



…無理だ!



意識のない時ならまだしも、ちゃんと意識がある時に体を拭かれるなんて。
そもそも何でナミさんはこんなに俺の世話を焼いてくれるんだ?
体なんてそう何度も拭かなくても良いだろうに。
お風呂だって、よっぽど汚れない限り入らなくても耐えられる。
それに…ナミさんがおばあちゃんとかならまだしも、若くて綺麗なお姉さんだから更に困る。

俺は助けを求めるべく視線を巡らせた。
チョッパー君は「それなら別に大丈夫だぞ」と笑ってる。
ウソップさんはナミさんのやる気に押し負けているようだ。
ルフィさんはすでに別の場所へ行ってしまったらしく、姿が見当たらない。
ロビンさんは夕食が終わるとすぐに食堂を出て行ってしまった。
サンジさんはナミさんの味方だ。だって目がハートになっているし。

その時。
テーブルについて、アニキと酒を飲んでいるゾロさんの姿が目に止まった。



*


ユエはゾロの元へ走った。
ジョッキを傾けていた背中に飛びつく。
ゾロはその衝撃で口に含んでいた酒をフランキーの顔に噴いた。


「ぶはっ!?ゴホッ…てめ、何しやがる…!?」
「ナミさんを止めてくださいっ!」


ゾロのシャツを握りしめ、ユエは半泣きで訴えた。
緑の瞳が潤む。


「だから、そんなに嫌がることないでしょー?」
「な、ナミさんは分かってません!俺男ですよ?」


言い返しながら、ユエはゾロの背に隠れた。
ゾロは口元を拭い、面倒くさそうに頭をかいた。


「…何がんなに嫌なんだよ?」
「その前にてめえは俺に謝らねーかっ!!」
「悪かった、で?」


酒まみれのフランキーを軽く流し、ゾロはユエを見た。


「別にたいしたことじゃないわよ?と言うか、アンタ聞こえてなかったの?」
「あぁ、聞いてなかった」
「ただユエの体を拭いてあげようとしただけよ。怪我でお風呂に入れないから」


「それなのに全力で嫌がっちゃって…ちょっとショックだわ」とナミは続けた。
ユエが申し訳なさそうに俯く。


「嫌がんのは当たり前だろ」


ゾロはジョッキに残った酒を飲み干した。


「コイツは男だって言ってんだ。意思をくんでやれ」


そう言い放ったゾロを、ユエは憧れの眼差しで見つめたのだった。





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