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歓迎会

眠っている人の近くにいると、眠くなる。
ゾロさんが起きるのを待っていたのに、いつの間にか俺は必死に眠気と戦っていた。

日が沈み、海風が冷たくなる。
ちょっと寒い。

その時、ずしりと肩に重みを感じた。
ゾロさんが寄りかかってきたのだ。
間を空けて座っていたのだが、寒さのせいで無意識のうちに近づいてしまっていたらしい。

どどど、どうしようっ!?

もう、揺り動かして起こした方が良いだろうか。
今の状況で目覚められたら何だか物凄く気まずい。
せめて体勢を前の状態に戻してから―…。


「…ん?」
「あ」


ゾロさんの体を押し返す前に、起きてしまった。
緑の頭がゆっくりと俺の肩から離れる。
重さから解放されたのにも関わらず、俺の体は固まっていた。
気まずすぎる。

ゾロさんが鋭い目で俺を見た。
そして、俺の格好に僅かに目を見開く。
俺は慌てて頭を下げた。


「あっあの!服をお借りしましたっすみませんありがとうございます…!」
「……ナミ達のは借りなかったのか」


これは…やはり、勝手に俺の服着てんじゃねーよこの野郎!と言う事なのだろうか。

俺はゾロさんの顔色を窺いながら、恐る恐る言った。


「女の子の格好は…どうしても嫌で…」


ゾロさんがじっと俺を見る。
俺は蛇に睨まれた蛙のように身動きできずにいた。
ふと、ゾロさんの顔が逸らされる。


「そうか」


ポツリ、と呟くように言って、ゾロさんは立ち上がった。
そのままスタスタと歩き出す。
ゾロさんの背中を呆然と見つめていると、ゾロさんがチラリと俺を振り返った。


「早くしろ、食いっぱぐれるぞ」
「はっはい!」


ゾロさんはぶっきらぼうだけど、とても優しい人だと思った。




*


夕食を前に、ユエは目を丸くしていた。
ユエがイメージする船の上での食事、と言うものからかけ離れていたのだ。
フランキーがユエ用に新しく作った椅子を、サンジが引く。
勧められるがまま席についたユエは、サンジに礼を言い、再びテーブルの上を凝視した。


「うっまそー!今日は豪華だなサンジ!」


ルフィの嬉しそうな声に、ユエがハッと顔を上げる。
「やっぱり豪華なんだ…」と呟いた声は、どこか戸惑っていた。


「そりゃ豪華にするに決まってんだろ、ユエちゃんへのお詫びだからな。ユエちゃん、君の好きなものがあるかは分からないけど、これが僕の気持ちです。受けと―…」
「お詫び?コイツになんかしたのかクソコック」
「うるせぇ!台詞を遮んなっ」
「なぁなぁ良いから食べよーぜー!!」
「もうアンタらうっさいのよ!ユエが困ってんじゃない」


ナミの一声で、騒いでいた全員が席につく。
ユエはナミに尊敬の眼差しを向けていた。


「ユエ、たくさん食べて早く怪我を治してね」


ナミはさっき怒鳴った時とは別人のように優しい声でそう言って、ユエに笑いかける。
ユエは頬を真っ赤にしながらコクコクと頷いた。
小動物のような動きが愛らしい。
まるでナミが調理したかのような口振りだが、勿論作ったのはサンジである。

ふいにルフィが酒を手に立ち上がった。


「ユエが記憶を取り戻すまで俺達が助ける!だからユエは今日から俺達の仲間だ!」


ジョッキを高く掲げる。
皆ルフィに倣ってジョッキを掲げた。
ユエだけ状況が飲み込めていないようで、オロオロと視線をさ迷わせる。
するとウソップが「ほら」とジョッキを渡してくれた。


「新しい仲間に乾杯ー!!」


木製のジョッキがぶつかり合う。
それが合図だったようで、皆食事を食べ始めた。
ルフィの勢いに、ユエはジョッキを持ったまま固まる。
そんなユエにチョッパーが「ユエは傷がまだ塞がってないから飲んだらダメだぞ」と言ってジョッキを取った。


「あんな野蛮な食い方する奴は放っておいて、どうぞお召し上がりくださいレディー」


サンジに微笑まれ、ユエはぱしっと手のひらと拳を合わせた。


「では、いただきます」


ユエの見た目から少食だと思っていたサンジは、女性にも食べやすい量をユエの皿に盛りつけていた。
もし食べきれなくても、その時は代わりに食べる者がいるし、今日どれくらい食べるのかを見て次の時に調整してあげようとさえサンジは考えていたのだ。
しかし、その予想は大きく裏切られることとなった。

ユエはルフィの次くらいに大食いだったのだ。

料理を一口食べ、ユエは目をキラキラと輝かせた。


「おいしい…っ!」
「気に入ったかい?」


サンジに聞かれ、ユエは何度も頷いた。


「俺、たぶんこんなに美味しい物食べたの生まれて初めてです…!」
「ユエちゃんの初めてになれて良かったっ!」
「おいサンジその言い方やめろよ」
「こんな料理を作れるなんて、サンジさん天才です…!」


ユエはサンジに尊敬の眼差しを向けた。
サンジはデレッデレしながらもユエが特に嬉しそうに食べていた物をチェックしていた。
女の子へのサービスにはぬかりないコックである。

それからユエは皿に盛りつけられた料理を綺麗に食べ終わると、いまだに食べ続けているルフィ達を少し羨ましげに眺めた。
もしかしておかわりしたいのかな?とサンジが訊ね、ユエは顔を真っ赤にしながら申し訳なさそうに頷いた。
その姿が可愛くて、船員全員がこれも食えあれも食えとユエの皿にのせ、流石に食べきれないのではと思ったところ全て平らげたのだ。

それから何度かおかわりが繰り返され、ユエはその細い見た目からは信じられない量を完食した。


「ユエオメーすげぇな!その腹なんで膨らまねぇんだ?」
「ちょっと膨らんでますよ、ほら」


そう言ってシャツを捲る。
白いお腹は少しだけぷっくりしていた。


「全然膨らんでねぇーじゃん」


そう言いながらルフィはユエのお腹をつついた。

そんな二人を見たサンジは、大食らいが増えて、食料は大丈夫だろうか…と思った。



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あきゅろす。
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