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「もしや、もうユリアンに許したのか?」

「な、にを……!?」

 胸倉を掴まれて、制服のシャツがギシリと鳴る。

「ユリアンに抱かれたのかと聞いている。いや、お前が抱いた方か?」

「な……」

 絶句しているアーベルの頬を撫でて、クラウスはくつりと笑った。

「俺が気付かぬとでも思ったか? 弟を見つめるお前の、その浅ましい目に」

「……っ」

 何の弁明も見つからない。人に知られてしまうほど、自分の心を御せなくなっていようとは。だが、するりと襟から侵入した無骨な手に、ハッと意識が戻る。

「やめ……お止め下さい、殿下っ」

「黙れ」

 バシリと頬を叩かれ床に伏す。腹に膝を置かれぐぅっと呻いた。己に覆い被さる男を見上げて、悔しさに眦が歪んでいく。
 ランプの光を反射する金髪。闇でも輝く宝石のような緑。国中の乙女が恋をする甘い容貌が、今は情欲に染まって色気を漂わせる。

「是しか聞かん。俺の物になると誓え。アーベル・フォン・エスターライヒ・リッター」

 そこにいるのは、無慈悲な絶対君主。
 黒い瞳が絶望の色を宿し、大きく見開かれる。映ったのは、天井の神。光を宿して、地に潜む悪魔を滅する勇敢な姿。
 これが裏切り者に対する罰なのかと、アーベルの頬を涙が零れ落ちる。そして、静かに目蓋を閉じた。
 首筋にクラウスの唇が落とされ、無骨な手が無遠慮に肌を弄るのを震えながら受け止める。主の兄と寝るなど不忠の極み。加えて、自分はもうあの人の騎士には戻れない。

「……ふっ」

 涙が止め処なく零れ落ちる。せめて声だけは出すまいと、ぎゅっと唇を噛み締めた、その時だ――

 ドンドンドン!
 けたたましい音を立てて、扉がギシギシ振動する。その向こうで、聞き慣れた声がアーベルを呼んだ。

「何をしている、私の許しも得ず兄上の寝所に来るとはっ」

 ユリアンだ。信じられないと、アーベルは身を起こそうとする。だが、その体を押さえつけ、クラウスがそっと耳元で囁いた。

「おらぬ事にしておけ。お前はもう俺の騎士だ。ユリアンには後で俺から言っておこう」

「しかしっ」

「黙って感じていろ」

 もうほとんど脱げかかったシャツを引き裂かれ、ズボンに手がかかる。思わずその手首を掴んだが、クラウスに一睨みされて、アーベルは泣く泣く手を引いた。
 その間も扉の前で怒鳴るユリアンの声が聞こえる。

「アーベル、貴様っ、主の言葉が聞けぬのか? 今日も起こしに来ぬようで、何が近衛騎士だ!」

 ユリアンの言葉に一々反応しているアーベルに溜息を吐いて、クラウスはその中心を握り込んだ。

「く……っ」

「立派なものだな」

 嘲るように笑われ、羞恥に身が震える。ああ、本当に、自分は何をやっているんだ。



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