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 部屋の外は更に喧騒を強めた。騒ぎに気付いたクラウスの近衛騎士が、ユリアンを宥め、その体を取り押さえたのだ。

「ユリアン様、後日改めて」

「くそっ、貴様ら何を、私は賢君と名高きクリスティアーネ女王第3が王子、ユリアン・フォルモンドだぞ!」

 どうやら数人がかりで王子を引き摺っているらしい。声がどんどん遠くなっていく。
 自分のためにそんなに必死になるユリアンが愛しく、申し訳がなかった。アーベルは女にでもなったかのように、涙が止まらない。

「青いな、ユリアン。ここは第1王子の寝所だぞ。3番目が何を吠えている」

 嘲るように笑うクラウスには、憎しみさえ覚える。主を馬鹿にされて、怒らぬ騎士がいるだろうか。

「貴方なんかより、ユリアン様はご立派な方です……」

「……なんだと?」

 アーベルは泣き腫らした目で、しっかりとクラウスを睨み付けた。

「ユリアン様は他人の気持ちが分かるお方だ。病床の弟君に目もくれぬ貴方と違って、兄らしく、優しく気高い人なんだ!」

 部屋からした物音に、ユリアンは抵抗してまた扉の前に来て、アーベルの名を叫んだ。それに勇気を貰う。

「何番目かなんて関係ない。王子であるかも関係ない。俺は……」

 ドンドンと、扉が揺れた。

「アーベル、いるんだろう!」

「殿下!」

 心まで、揺れ動く。身を捩って、圧し掛かる体からなんとか這いでようとした。アーベルが本気で抵抗すれば、クラウスとて無理はできない。彼は心底不思議そうに、足掻くアーベルを見つめた。

「何故だ。お前の望みは、俺の下でこそ、果たされるだろうに……」

 その言葉の真意に、アーベルが気付くことはなかった。ただ、聞こえる主の声に頭の中がいっぱいになる。

「貴様、何をやっている。お前は、私の騎士だろうっ。命令だ、今すぐ出て来い!」

 ユリアンがこんなに泣きそうな声を出したのを、聞いたことがあっただろうか。
 体が勝手に動き、クラウスの横面を殴り飛ばしていた。下からではあったが、虚をつかれた体はアーベルの上から退き、彼は急いで扉に駆け寄った。

「ユリアン様!」

「アーベル!?」

 出てきたアーベルの姿に、ユリアンも、それを取り押さえていた騎士達も目を見開いた。それはそうだ。着ているのはズボンだけ。泣き腫らした目と、赤くなった頬。この状況から見ても、アーベルの身に悲劇が起きたことは、誰の目にも明らかだ。
 ただ更に運が悪いことは、それをしたのがクラウスという、この王宮の実力者だということだ。誰であろうと、彼の誘いは拒めない。望まざろうが、騎士であろうが。



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