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京七小説

ずいぶん歩いたようだったのに、馬車で来ると、すぐに館の車寄せにたどりつきました。
ですが、先ほどの執事の態度にすっかりおびえてしまった緋真は、ぶるぶる震えながら七緒にしがみつき、馬車から下りようとはしません。
「さあ緋真ちゃん。勇気を出して」
「だめよ。私は歩けない。靴をなくしてしまったもの」
それを聞いた京楽がおどけた口ぶりで言いました。
「おやおや、それではまるでシンデレラだ」
七緒はため息をついて言いました。
「京楽様。恐れ入りますが、少しだけ目を閉じていてくださいませんか」
「はいはい。仰せのままに」
京楽がシルクハットを顔にかぶったのを見届けると、
七緒は黙って青い靴を脱ぎ、緋真に差し出しました
「早く、これに履きかえて」
「そんな。七緒ちゃん」
「いいの、今夜の主役はあなたなんだから」

玄関先にいた執事は、京楽子爵に続いて馬車から下りてくる女たちを見て、凍りつきました。
ようやく追い払ったはずなのに。
「ようこそ、おいでくださいました。京楽子爵……しかし、その二人は」
「僕の連れだよ」
「しかし、その」
もの言いたげに二人を睨み付ける執事に帽子とコートを渡しながら、京楽は低い声で尋ねた。
「まさか、連れに通せんぼして、僕に恥をかかせるつもりじゃなかろうねえ」
「いえ」
執事は悔しげに道を開けました。

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