京七小説 5 ずいぶん歩いたようだったのに、馬車で来ると、すぐに館の車寄せにたどりつきました。 ですが、先ほどの執事の態度にすっかりおびえてしまった緋真は、ぶるぶる震えながら七緒にしがみつき、馬車から下りようとはしません。 「さあ緋真ちゃん。勇気を出して」 「だめよ。私は歩けない。靴をなくしてしまったもの」 それを聞いた京楽がおどけた口ぶりで言いました。 「おやおや、それではまるでシンデレラだ」 七緒はため息をついて言いました。 「京楽様。恐れ入りますが、少しだけ目を閉じていてくださいませんか」 「はいはい。仰せのままに」 京楽がシルクハットを顔にかぶったのを見届けると、 七緒は黙って青い靴を脱ぎ、緋真に差し出しました 「早く、これに履きかえて」 「そんな。七緒ちゃん」 「いいの、今夜の主役はあなたなんだから」 玄関先にいた執事は、京楽子爵に続いて馬車から下りてくる女たちを見て、凍りつきました。 ようやく追い払ったはずなのに。 「ようこそ、おいでくださいました。京楽子爵……しかし、その二人は」 「僕の連れだよ」 「しかし、その」 もの言いたげに二人を睨み付ける執事に帽子とコートを渡しながら、京楽は低い声で尋ねた。 「まさか、連れに通せんぼして、僕に恥をかかせるつもりじゃなかろうねえ」 「いえ」 執事は悔しげに道を開けました。 [*前へ][次へ#] [戻る] |