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今日も変わらず地球は回る
君がいない



立海大附属高校の入学式当日。
クラス発表を見た桜達はもちろん、幸村以外のテニス部の仲間達は愕然とした。

彩音の名前がどこにもなかったからだ。

海里が彩音にメールをしたが、当然返事は来ない。彼女達は仁王に聞いてみるが、冷たい表情で「知らん」と答えるだけで。

「知らないってどういうこと!?」
「知らんもんは知らん、別れた女のことなんか」

感情の読めない顔で吐き捨てるように言うと、仁王はさっさと自分の教室へと歩を進めた。

「別れたって…なに?」
「なんで私達にも何も言わないの彩音…」

唖然とする桜達に、幸村が小さく呟く。

「君達にも連絡してないの?」
「うん。4月に入ってからさっぱり。でも仁王君と別れたって…一体」
「…うん」

幸村は、二人が別れた翌日からのことを話した。
翌日は部活があって、それでも仁王はやって来た。そして幸村に告げたのだ。
彩音と別れた、と。

「どうして…?」
「分からん…言えんて言うとった」
「それで、仁王はどうするの?」
「どうするも何も、付き合うのは別れの日までっちゅう条件やったき」

そういう話だったのか、と幸村は頭の中で思う。しかし、彼は彩音の味方ではあるが、納得してはいない。だから。

「諦めるんだ」
「なわけなかろ!!」

荒く声を上げた仁王に驚くも、むしろそうでないと、と軽く笑んだ。
だが。

「じゃが、メールも電話も通じんし、マンションは引き払っちょった…」

その日惨憺たる部活内容だった仁王は、直ぐに帰された。
その翌日部活に来た仁王は、もうその話に触れようとはせず、ただひたすらにテニスに打ち込んでいるのだった。

「女に走ったら俺が殴ってるとこだけど」

幸村が思うに、仁王は彩音との条件を果たそうとしているようだった。
恨んで、忘れようと。
しかしそんなことが簡単に出来る筈もなく。
痛々しい程にテニスをする仁王に、歯痒い思いをしていた。
仁王ならきっと、彩音を幸せに出来ると思うのに。

「幸村君は何か知らないの?」
「うん。俺も知らないんだ…」

それは嘘だ。幸村は全てを知っている。婚約を聞かされた時点で、彩音は氷帝へ戻るのだと分かっていた。
桜達には落ち着いたら話すと聞いているのだが、それも言えない。

予鈴が鳴り響き、彼らは教室へと重い足を運んだ。

仁王は丸井と同じクラスとなり、二人は窓際の1番後ろに座った。ぼんやりと外を眺める仁王の憂いの表情が、女子の視線を集めていて正直欝陶しい。
話し掛けることも出来ず、丸井はいつものガムを膨らませて前を向いた。

去年は、仁王の席の反対側に彩音がいた。仁王はそちらに一瞬視線を送り、再び窓の向こうへ遣った。

「(彩音…お前さんのおらん教室はつまらんぜよ)」



所変わってこちらは氷帝学園入学式。
彩音は気持ちを落ち着かせ、開いたドアから車を降りた。
いくら氷帝とはいえ、全員が車での送迎ではない。彩音も普段は自分で登校するが、今日だけは特別だった。

車を降りた彩音に視線が集まる。羨望、驚き、妬み。
しかしもう彼女がそれを恐れることはない。

『あれってまさか…』
『蓬莱彩音!?今更どうして!?』
『また跡部様に近付くつもりかしら』

ヒソヒソ話す声にそんな声も混じっていて、彩音はぷっと吹き出した。そして。

「「!!?」」

一度立ち止まり、噂をする女生徒達を軽く見て、微笑んだ。
瞬殺。
誰もそれ以上彼女について悪い話をすることは出来なかった。

白い肌、エメラルドグリーンの瞳に艶やかな唇。
真っ直ぐな黒髪がふわりと風に揺れ、息が詰まる程美しく。

そしてただ一人、震える自身の体を抱く女子に一瞥を送ると、彩音は滑るような歩みで校舎へと消えた。

「ん、先手必勝。これで私に手を出せる人が減ったわ」

クスッと笑んで教室に入った彩音は、室内に忍足を見つけた。

「あ、侑士くん」
「彩音!!話には聞いとったけど、ほんまに戻って来たんやな」

女子に囲まれていた忍足は、もう解散な、と彼女らを散らす。名残惜しそうな彼女達だったが、仕方なく戻っていった。

「大丈夫なんか?」
「何が?」

隣に座った彩音は忍足の問いに無表情にも見える笑顔で返す。何も言えない忍足は、気まずそうに「すまん」と言うと、今度はふわりと見惚れる笑顔で「大丈夫だよ」と言った。

「彩音…立海でどんだけ揉まれたんや…」
「フフッ」

すごいな立海、と呟く忍足の座る場所は窓際1番後ろ。昨年の春、仁王の座っていた場所となる。

「(ここに雅治はいない…)」

仁王がいないと、空気がまるで違った。



(100121)

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