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今日も変わらず地球は回る
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ジュリオが両親と話す彩音に飲み物を渡すと同時に、両親は他から呼ばれそちらに行ってしまった。
二人を見送った彩音が、貰った飲み物を口に含みコクリと飲んで、小さくふぅと息を吐いてジュリオを見上げた。

『いつもながら、挨拶回りも大変ね』

仕方ないんだけど、と苦笑する彩音にジュリオも苦笑して、『これも大切なことだしね』とグラスに口をつけた。

それから程なくしてパーティーは終わり、彩音は両親と共に自宅へと帰った。
シャワーの後、久しぶりのイタリアの空気を味わいながら荷物を解き、修学旅行で買った土産を取り出して忘れないようにテーブルに置く。

ふと目に入った携帯電話は、知らない内にメールを受信していたらしく、小さなランプがチカチカと光っていた。

「雅治だ」

仁王からのメールには、無事着いたか?という確認と、元旦の昼に幸村達と会ったことなどが書かれていた。
いつものように賑やかな彼らを思い浮かべると、自然と笑みが零れる。
無事着いたこと、こちらでもパーティーがあったことなどを打って送信した。

「桜達にもメールしとこ」

海里から必ずメールするように言われていたのを思い出し、カチカチと携帯を操作して、彩音はベッドに潜り込んだ。



翌日、彩音は修学旅行のお土産を持って両親と共に祖父母を尋ねた。
すると、先にジュリオや彼の両親、さらにはグループの幹部達までもが顔を揃えていた。
昨日のパーティーで会った筈なのに何故、と不思議がる彩音に、申し訳なさそうな表情の両親が「話がある」と告げた。

「話?」
「実はね…その…」
「ん?」

言いづらそうな両親に代わり、ジュリオが近付き彩音の手を取った。

『僕から話そう。彩音、僕らの婚約の発表を今年の秋にしようと思うんだ』
「……え?」

さらりと告げられた話は、彩音の耳を一度擦り抜けた。
聞き返した声は、少し震えていた。

『秋に、婚約を発表する』

今度ははっきりと彩音の耳にも届いた。
けれど震えは声だけでなく全身に回っていた。

『どう、して…そんな急に…』
『ハッキリ言ってしまえば、君に保険を掛けるためだ』
『保険…?』

意味の分からない事に彩音は首を傾げる。

『先の君のアイデアはとても好評だったし、君はグループにとってなくてはならない人物だ。でも君はまだ若いし、いつこの道を歩くことを放棄するか分からないと幹部達が心配されていてね』

だから早めに手を打っておこうという訳でね。

そう説明するジュリオの表情は、まるでこれを喜んでいるようでもある。

『そんなことしなくても私は道を逸れるようなことはしないわ!』

ジュリオとの婚約は予め決まっていた。
けれど、大学に入学するまでは、彩音は自由であることも決まっていた。
だから彼女は、遅くとも高校を卒業するまでに仁王から離れる覚悟をしているのだ。

『僕は分かってるよ。でも今、君には付き合っている男がいる――万が一ということがあるかもしれない』
『絶対ないわ。それは断言します!』

彩音が幹部達に向いてハッキリ告げても、表情が変わることはない。

『だったら結局は同じこと。今別れておけば傷は浅くすむんじゃないかい?』
「……ッ!!」

ぐっと唇を噛み締め、祖母に渡すお土産をテーブルに置くと、彩音は踵を返した。

『お祖母様…これお土産です…私、少し外に行きます』
『彩音…』

静かにドアを閉め、彩音は街の中を歩いていく。
いつの間にか頬は濡れていた。
水路に掛かる橋の上から水面を見下ろして、じっと自分を見つめる。

辛い。悲しい。
こんなにも早く別れが来るとは思ってもみなかった。
もう少し一緒にいられると、思っていたのに――。

だが、彩音の心は決まっていた。
あとはこの気持ちを落ち着かせるだけなのだ。

「雅治……ごめんなさい…」

今だけ少しだけと、彩音はしばらく涙を流した。
ひとつ落ちた雫が、水面に波紋を作った。



(091013)

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あきゅろす。
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