今日も変わらず地球は回る :3 橋の上で俯く彩音の姿を、追いかけて来ていたジュリオが見つめていた。 本当は今すぐその背中を包み込みたいと思っているのだが、ジュリオは足が出なかった。 二人が初めて出会ったのは彩音が生まれた日。 5歳年下の彩音は、もちろん初めは妹のような存在で、ジュリオはいつも後ろをついて来る彼女を可愛がっていた。 婚約の正式な発表までは二人とも自由であるという約束もあり、これまでに恋をしたことなど何度もあるが、どれも長く続くことはなかった。 しかしある時、イタリアに帰って来た彩音に会って、その理由が分かった。 彩音が好きだからなのだと。 婚約者であるその前に彩音が好きなのだと気付いてから、他の女性に気が向くことはなくなった。 けれど、彩音はジュリオを家族以上には見ていなかった。決められた婚約者だと知っていても。 それでも、ジュリオは時間を掛けてでも彩音と気持ちを育むつもりでいた。 彩音もそのつもりでいただろう。しかし。 今、見つめている背中からは、日本のあの男への想いが溢れている。 きっと、一生、彩音の自分への気持ちが恋や愛に変わることはない、とジュリオは気付いた。 『それでも僕は…』 そっと彩音に近付いたジュリオは、持ってきたコートを彼女に掛けてやった。 振り向いた彩音の目は赤くなっていて、まだ潤んでいた。 『ジュリオ…』 『僕は、君が誰を想っていても君を幸せにするよ』 取った手を包み込み微笑むジュリオに、彩音は目を伏せた。 『たとえこういう形でも、君が手に入るのが僕は嬉しいんだ。君が、好きだから』 軽く引き寄せられ抱きしめられると、体は温かくなった。 けれど彩音の心の中は、仁王とジュリオ、二人への申し訳なさでいっぱいだった。 別れを告げなくてはならない仁王への罪悪感。きっと傷つけることになる。覚悟している筈なのに、好きになりすぎたから。 彩音は、ジュリオのことは好きだ。しかし、それはやはり家族、身内としての感情であり、仁王というかけがえのない存在を知ってしまった今、その感情が異性としてのものへと変わることはないと、彩音自身も気付いていた。 『…私、ジュリオのこと好きよ』 『うん。…幸せにするよ』 『……うん』 ジュリオの温かさに包まれながらも、彩音は仁王のことを想っていた。 (091021) [*←][→#] [戻る] |