今日も変わらず地球は回る
マネージャー候補
私に構わないでよ!
《マネージャー候補》
幸せだった土曜日の気分をそのままに、日曜日はボーッと過ごし、週明けの月曜日。
何事も起きずに一日が過ぎ放課後になり、私は帰るために席を立った。
すると、仁王君が私の目の前に立った。
「のぅ蓬莱」
「……何の用ですか…」
この間から一体何なんだ。人前で話し掛けんじゃねーよ!あぁほら、クラスの女子や廊下から覗いている女子の視線が…!
「まぁ、そう警戒しなさんなって。別に取って喰うわけじゃないき」
「……それで?」
警戒もするっつーの!人の良さそうな笑みを浮かべてるのが怪しすぎる!
「ちと話があるんじゃが」
「私にはありません」
「ちょっとついて来てくれんか?」
「お断りしま…っ、ちょっと!」
仁王君は私の言葉を無視して、私を引っ張って行く。放課後だからそれほどでもないが、まだ生徒はたくさんいて、何事かと私達を見ていく。
(目立つの嫌ぁー!)
引っ張られるうちにどこへ向かっているのかも分かって嫌な予感がして、でも仁王君の力は強くて逃げたくても無理だった。
そして、私は部活直前の男子テニス部の部室に放り込まれた。
「ちょっと、何なんですか!」
仁王君の腕を振りほどきふと気付く。ハッとして見れば、レギュラーが勢揃いしていた。
ここで普通の女子なら真田君や柳君の迫力に押し黙るとこだけど、私は気にせずに仁王君を睨んだ。
「…どういうことですか?」
「真田、こいつじゃ、マネージャーの宛て」
「む?…蓬莱が?」
「は?」
私が思わずポカンとしていると、彼らの中で話し合いが始まった。
「どうして蓬莱なのだ?」
「条件の合う女子は蓬莱しかおらんぜよ」
「仕事はできるのか?」
「少なくとも委員の仕事はきっちりこなす。俺達に色目使うこともない」
「なるほど」
仁王君の説明に真田君と柳君が「ふむ」と納得している。柳生君まで「…確かに彼女なら…」なんて頷く。えーと、確か桑原くん?はどうでもよさそうにしていて、後の2人(名前知らない)は「俺はもっと美人な人がいいっスね」「そうそう」とか言っている。
(美人じゃなくて悪かったな!)
「…ちょっと待って。マネージャーってどういうことですか?」
会話の中に出たある言葉に、私を無視して話をしないで欲しいのですが、と説明を求めると真田君が「あぁ、すまない」と話し始めた。
「これから大会が始まるので練習量が増えてくる。それでうちにもマネージャーが必要ではないか、と部長の幸村から話が出てな」
(精市くんなんてことを…!)
取りあえず心の中で精市くんを睨んでおいた。
「それが何故私に繋がるのですか?」
「お前さんなら俺達に色目使うこともないだろうし、仕事もできそうだと思ったからの」
「それはまぁ……あなた方に何の興味もありませんけど、別に私じゃなくてもそういう方は他にもいると思いますが?」
「それに、逆に俺達がお前さんにちょっかい出すってこともないじゃろ?」
「……」
当たり前だっつーの。しかし、仮にも私だって女の子なのに失礼な奴だなと少しだけ仁王君を睨んだ。
「仁王君、女性に対して失礼ですよ」
柳生君が、さすが紳士と言われるだけはあるな、と思わせるフォローを入れてくれた。
「話は解りましたがお断りします。私は静かに暮らしたいので。では、失礼します」
私は力の限り、勢いよく部室のドアを閉めて、学校を後にした。
「……冗談じゃない…静かな生活を乱されてたまるか!!」
噂というのはどこから洩れてしまうのか。
昨日の今日で、マネージャー候補の話は全校中に広がっていた。
教室に入るなりクラスメートからの質問責め。
「蓬莱さん、テニス部のマネージャーになるって本当!?」
「大嘘です」
――なんて感じだ。
それに休み時間には私の品定めでもしてるのか、見にくる人波が絶えずだし、廊下側の席の私はイライラしっぱなし。
放課後、ようやく帰れる、と席を立つと同時にまた仁王君に拉致られた。
「ちょっともう!離して下さい!マネージャーなんて絶対嫌ですから!」
「何でじゃ?」
「私は静かに暮らしたいと言いましたよね?あなた方のような目立つ人達と関わって目立ちたくないんです!大体、あなたはどうしてそこまでして私をマネージャーにしようとするんですか!?」
私の質問に仁王君はポカンとして立ち止まった。
「そうじゃな…何でじゃろうか?」
「私に聞かれても困ります」
「ふむ…そうだな…お前さん、俺達に対して『興味ない』と言うたな?」
「言いましたね」
「それじゃ。あとは図書委員の時。俺に真っ正面から意見する女は初めてじゃったからの。お前さんならウチの部でもやっていけると思った」
「……」
あぁ、そうか…ということは、私は墓穴を掘ってたのか…!でも他の女子みたいにこいつらに媚びるなんて絶対無理!
「のう、ウチのマネージャーになってくれんか?」
「…お断りします!」
私は逃げるようにして帰った。この時点で私はすでに目立ってしまっている事実を認めたくなくて。
そして翌朝、教室の前にいたのは。
「蓬莱」
「…真田君」
朝から何故あなたが!?…という質問は愚問。副部長がわざわざご苦労なことだ。
「…何か?」
「マネージャーの件だが…」
「それならお断りしたはずです」
「しかしだな」
「…予鈴、鳴ってますよ」
「……」
仕方なさそうに真田君は自分の教室へ戻っていった。タイミング良く鳴ってくれた予鈴に感謝したい。
何とそれから休み時間の度に、誰かが私のところにやって来てはマネージャーになってくれと頼んでくる。名前を知らない2人なんか「真田副部長にたのまれたんスよ」なんて言いながら。(嫌なら来なくても構わないのに!)
さすがにここまでされては目立ちたくないとか言ってはいられない。
「ん?」
携帯のバイブが短く震えて、見てみると精市くんからだった。
『彩音がマネージャーになってくれたら嬉しいな』
精市くんまで何言ってんの!
『PS.俺たちを信じて』
「精市くん…」
精市くんの言葉が胸に沁みてくる。でも、やっぱり嫌なものは嫌。マネージャーになることで起きてしまうかもしれない『何か』が怖い。
(まだ踏み込む勇気がない。)
(07/01/24)
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