今日も変わらず地球は回る 事件発生 …さぁ、やっぱり来ましたよ。 《事件発生》 あれから数日、私のイライラはかなり限界近かった。 毎日よ?毎日!! おかげで私は学校中の有名人になってしまいましたよ! 静かな生活、さようなら…。 「はぁ…」 もうイライラを通り越して呆れてしまいそう。でも呆れてしまったら話を受けてしまいそうだから、ギリギリのところで粘っている。 そりゃあね、テニス部は精市くんが部長なんだし、少なくとも一人は味方がいる。でも、精市くんを頼ってしまうとそれはそれで女子の反感買うだろうし。(なんたって精市くんはめちゃくちゃモテる!) 「いい加減、諦めてください」 昼休みの図書室。私は棚に本を戻しながら、同じく仕事をする仁王君に向けて言った。 「それはできん」 「…はぁ…」 「溜め息吐くと幸せが逃げるぜよ」 「…結構ですよ」 昼休みなのでそれほど時間があるわけでもなく、予鈴と共に図書室を閉めた。 「あ、鍵は私が返しておきます」 「ありがとう、じゃあお願いするね」 この間から隣のクラスの委員の子とは仲良くなった。彼女は話してみると割といい子だった。委員を休んだのは彼女も部活があったからで、申し訳なく思ってくれていたらしい。 その彼女と別れて私は職員室に鍵を返し、教室へと急いだ。 その途中のこと。 「蓬莱彩音ってあなた?」 「……」 はい、いつか来るとは思っていたものが来ましたよ! 私は後ろから呼び止められたので一旦止まって振り返り、呼び止めた人を確認してまた歩き始めた。 「ちょ、ちょっと!」 「待ちなさいよ!」 尚も呼び止めるのにも構わず歩いていく。 「申し訳ありませんがもうすぐ授業が始まりますから用件は歩きながらにして下さい」 「な、何ふざけたこと言ってんのよ!」 「あなた方も授業に遅れますよ?」 私が止まらないからついて来るしかなかった彼女たちは、結局私のクラスまで来る羽目に。 「な…何なのよ!」 「そちらこそ何ですか?どんな用件かは察しがつきますけど、もう本鈴が鳴ってますし、続きは放課後にしてください」 ポカンとしている彼女たちに先生が来ましたよ、と言うと慌てて去って行った。 たまたま窓際に目を遣ったら、仁王君が笑いを堪えていた。 「…まったく…」 迷惑この上ない。 しかも、放課後律義に彼女たちは教室までやってきた。随分暇なのね。 「ちょっといいかしら?」 「いいですけど…私、今から委員会なので手短にお願いできますか?」 「すぐに済むから大丈夫よ」 クスクス笑いながらその子は言った。 「じゃあどうぞ」 「え…ここで?」 「ええ」 彼女たちはまだ教室内にいる仁王君や柳生君をチラっと見て言いにくそうにしていた。 残っているクラスメート達も気になるみたいでこちらを伺い見ている。もちろん仁王君、柳生君も。柳生君が何か言いかける(多分、彼女たちを止めようとした)のを、仁王君が制したのを視界の端に入れてから、私は再び彼女たちに向いた。 「こ…ここじゃちょっと…」 「人の目のない所でするようなお話なのですか?」 「え…えっと…」 「…あまりいいお話ではなさそうですね。どうせ私にテニス部のマネージャーになるなとかレギュラーの皆さんに近付くなとかそういったお話だとは思いますが。私は元からマネージャーなどになるつもりはありませんし、私からレギュラーの皆さんに近付いているわけではありませんから、そういうことは話を持ってきた当人にお願いします。…というわけで、私は委員会がありますので失礼します」 唖然とする彼女たちを放って、私は教室を後にした。直後、仁王君の爆笑する声が聞こえた。 誰のせいだと思ってるんだ…! 私が図書室に着いて少ししてから仁王君もやって来た。 「蓬莱はホントに面白いのぅ…ますますマネージャーになって貰いたくなったぜよ」 「……(また墓穴!?)」 思えば、仁王君が図書委員にさえならなければ、彼らとは全く話す機会などなかったんだろうな。校内でも屈指の有名人達に対してこんな対応してるのは私くらいだろうなぁ。 「一度、俺達の練習見に来んか?見たことないじゃろ。テニスには興味ないかの?」 「…テニスは…好きなほうですけど…」 景吾くん達にしょっちゅう相手させられてるし、教えてくれるのはいいけどいつの間にかしごかれてて、下手なテニス部員よりは上手くなってしまったのだ。それに、氷帝のみんなと打つのは楽しかったりする。 「まぁ騙されたと思って、な?」 「…気が向いたら…ですよ」 「その返事で十分じゃ」 そう言って仁王君はニッコリ笑った。 もう…何でそこまでするんだろう…。 精市くんに一度相談してみようかと思い、家に帰ってから病院を訪ねた。 「……あのさ…」 「…マネージャーの話のこと?」 「うん」 「俺としては、彩音が入ってくれるとすごく嬉しいけど、決めるのは彩音自身。仁王の言う通り一度練習を見てみるといいよ」 「…うん」 そうしてみる、と笑って言った時、コンコン、と部屋をノックする音がした。 あ…しまった。彼らだ。今日は察知できなかった…。 「今日は分からなかったの?」 「ま、そんなこともあるよ」 「そっか……あ、どうぞ」 小さな声で会話して、精市くんがドアに向けて声を掛けた。 開いたドアからは案の定、テニス部レギュラー…しかも勢揃いでした。 「む…すまん、先客だったか?」 「いいよ、大丈夫」 「(よくねぇ!)…じゃあ私、行くね」 「うん、またね」 「ん」 繋いでいた手を離し、真田君たちに小さく会釈して私は病室を出た。 バレてはなかったみたいで、エレベーターに乗った瞬間、思わずホッとしてしまった。 「すっげー可愛い子っスね…幸村部長の彼女っスか?」 「んー…まぁそんなとこかな」 「え!マジかよ!?」 「いいなー!羨ましー!」 「彼女、幸村の知り合いじゃったんか」 「仁王君、知っているのですか?」 「いや、この間来た時に擦れ違ったんじゃ」 「あぁ、あれ、彼女のことだったんだね」 ――なんて感じで勝手に彼女にされてたんだけど、それが判るのはまだずっと先のことなのでした。 (大した事件でもありませんでしたが。) (07・01・31) [*←][→#] [戻る] |